ウィシュマさんビデオ詳報【上】入管が見せたもの、隠したもの

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◆「入管は書類を改ざんしているのではないか」

 ウィシュマさんの死をめぐり、階氏は入管による書類の改ざんを疑っている。

 「そういう中で3月3日に入管の看護師がウィシュマさんといろいろやり取りしてるんですね。看護師の日誌では、『明日病院に行くんだけど、そこでこういうことを言います』とか、やり取りしている。でも、その部分のビデオは私たちは見ていません。疑問に思うのは、3月3日の状況でそんな事細かなやり取りができていたのか、と。『結婚したい』とか、そんなことも雑談の中で話してるんですけども、本当にそんなことがあったのか。疑問なんです。3月3日の看護師との会話以外の部分は見てるんですけども、あたかも『3月3日の時点では全く死ぬ気配はなかった』ということを言わんがためにそうした記述が日誌にあるような気もして。その部分のビデオを見て、日誌とは違うことが明らかになれば改ざんになる。見せていただきたい、と強く入管庁に言っています」

 「改ざんがあったにせよ、なかったにせよ、隠蔽があったことは間違いない、ビデオと(昨年8月に入管庁が公表した)最終報告書の内容は大きくズレてます。最終報告書には2月24日の朝4時からの部分はたった1行で、しかもかっこ書きで、『体調不良を訴えた』という一言だけです。この最終報告書は実態を隠していると思っています」

◆「粗末に扱っていた人間がヤバくなると、急に優しくなる」

 衆院議員・鎌田さゆり氏(立憲)は入管職員の対応に強い疑問を投げかけた。

 「(昨年)1月以降、ウィシュマさんは腎機能障害、肝機能障害に加え、脱水障害と強い飢餓状態に陥っていました。なのに、そういう状態で2月24日からリハビリが始まっているんです。体重が20キロ以上落ちて体力がない人間にリハビリを行うということは、ますます弱らせていくことになる。入管にそんなマニュアルがあったのなら即刻変えなければいけないし、ビデオを見て感じたことは、職員たちはウィシュマさんが死ぬその時を、ただ待っているかのようにしか見えませんでした」

 「私は心理学の専門家ではありませんが、人はそれまで粗末に扱っていた人が『本当にこの人、危ない、ヤバい状態かも』と思った途端、急に優しく声を掛けたりするような心理になることがあるのでは、と。職員の状態はまさにそれでした。ウィシュマさんが一切声を発せられなくなって、今死んでもおかしくない状態になった途端に『頑張ろうね』『大丈夫だよ』『元気出していこう』って。今さら何でそんな声を掛けてるの、という思いで私はビデオを見ました」

鎌田さゆり氏(撮影:本間誠也)

◆「見せたくない映像は編集でつながない。隠す」

 民放テレビの元ニュースキャスターの参院議員・真山勇一氏(立憲)は、ビデオは入管によって「編集」された点を強調した。

 「ビデオを見た感想を一言で言えば、『ひどい』『あり得ない』。そういう思いです。見せなかった理由がよく分かりました。しかも6時間半に編集したビデオなんですね。当局側が編集した映像なんです。私はテレビで仕事をしていましたから、編集の大事さが分かっています。映像は(視聴者に与える)印象が強い。私たちは視聴者に見せたいものをつないで編集するんです。見せたくないものはつながない。隠す。階議員が話していたように、私たちが見たいものはまだ隠れてるのではないか。まだきっと、とんでもないものが隠されているのではないか」

 「(ビデオの)最初のころ、ウィシュマさんは職員と話をしていました。最後の2日、ほとんど何も言わずにベッドに横たわったまま。声を掛けても何も反応しない。それに向かって職員は声を掛けていたのかもしれませんが、呆然と見てるだけのような感じでした。何もやらない。そしてウィシュマさんは最期を迎えてしまう。救急車で運べば助かったんじゃないか。放置していたということは、間接的な殺人ではないか、とさえ感じました、入管の仕組みを変えなければまた同じことが起きてしまう。ウィシュマさんに対する最大の恩返しは、入管の仕組みを変えることだと思っています」

 ここまでで3人の議員が報告を終えた。いずれの内容も胸が締め付けられるような内容である。報告会の後半では、さらに重い内容が示された。

『ウィシュマさんビデオ詳報【下】妹のポールニマさん「日本の全国民に見てほしい」』(フロントラインプレス)
『なぜこんな冷酷なことができるのか? ウィシュマさんの死と入管 指宿昭一弁護士語る』(フロントラインプレス)

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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