山梨県知事がCDRを「重要政策」に据える理由 こども家庭庁とCDR【3】

  1. オリジナル記事

◆強い意思表示が必要だと思った

 ――国のモデル事業に手を挙げる以前に、2019年8月の山梨県第1回検討会に出席されていますね。

 言い出しっぺだし、CDRには多くの関係者が絡んでくるので、強い意思表示が必要だと思いました。『CDRは選挙で選ばれた知事としてやるべき政策だと認識しています。県の大方針ですから皆さん協力してください』と。総論は賛成でも、各論で問題は起こりうるわけじゃないですか。そこは総論を目指して知恵を出し合いましょうと呼びかけたかったんです。

 ――モデル事業1年目では13件の死亡例が検証されました。報告書の感想を教えてください。

 もっとガツンとやってもいいんじゃないのという思いもありましたが、県内だけの事例ですし、しっかりした内容だったと思います。やっぱり、現場は慎重というか、おっかなびっくりなところはあったと思います。(検証は)個人情報の塊ですから。

 それに、子どもの死亡に関する話なので、親御さんからすると、本当は『触れてくれるな』という世界なのかもしれません。心の半分では、再発防止と言えたとしても、残りの半分は『そっとしておいてほしい』と思っているかもしれない。そういう意味では、もっとパイを大きくして実施するべきです。全国的にいろんな事例を集約して、国レベルで検証をしっかりしてフィードバックするような形が取れたら本当はいいですよね。あるいは、各県で検証したものを情報交換できればいいと思います。

 他県の検証結果のすべてが本県の参考になるかはわかりませんけども、そこから、ケーススタディとして、「こういう対策があるよね」と知ることができます。その対策を具体的に実行する際は、各県でベストな対応をすればいいと思うんです。全国でやるべきもの、各地域でやるべきもの、それを意識しながら取り組むのが効果的ではないでしょうか。

山梨県庁(撮影:穐吉洋子)

 

 ――県単位の方がCDRを進めやすいが、検証結果のフィードバックは全国的に行ったほうがよいということですね。モデル事業参加の他県との交流はありますか。

 知事に就任した2019年の6月に滋賀県で「日本創生のための将来世代応援知事同盟サミット」が開かれました。まさに子育てについて議論する場だったので、「CDRをやりませんか」と提案しました。主催者の三日月大造・滋賀県知事も賛同されて「これ、いいですね」と言っていただけました。滋賀県もCDRモデル事業をやってますよね。(モデル事業に参加している)滋賀、三重、高知などは、将来世代応援知事同盟の仲間です。

◆CDRは国の事業として全国展開すべき

 ――CDRは本来なら2022年度に国が制度化する予定でした。今は2023年度に創設の「こども家庭庁」に組み込まれる予定です。どのように期待していますか。

 CDRは、やはり、国の事業として全国展開すべきだと思います。その中で、国と、現場である県、市町村で役割分担していくのがいいと思います。例えば、洗濯機の中に入った子どもが亡くなるという事故が過去にありましたが、製品のデザインだとか、食べ物が喉に詰まらない大きさにするとか、メーカーに対するフィードバックは国にやっていただきたいことです。

 他方で、個別の研修会などはわれわれが実施する。より効果的にするために国と都道府県が連携してやれば、こども家庭庁の目玉の一つになると思います。こういう取り組みこそ、“横割り”の省庁ですよね。さまざまな省庁をまたぐ横割りの組織であるこども家庭庁がふさわしい。オールジャパンですべきことです。

(撮影:穐吉洋子)

 

 ――子どもの命を守るには、親への支援も重要ですが、CDRのほかに子どもに関わることで取り組んでいることは何がありますか。

 これはもう、全国でトップクラスを走っていると思います。知事になって、子育て支援局という独立部隊を作ったのは本当に大正解だったと思います。特色のあることをいくつかやっていますが、待機児童ゼロのセカンドステージというチャレンジをやっています。待機児童ゼロとは総数でゼロということですが、それだけじゃ意味がない。

 例えば、甲府に勤めるお父さんお母さんが、県境の上野原市の保育園が空いているからといっても、そこに通園するのは無理じゃないですか。希望の園に入れないことで、潜在的な待機児童がいるんです。少なくとも自分のうちから近く、なおかつ、好きなタイミングで預けられるというのが望ましいです。

 何年か前に話題になった「保育園落ちた、日本死ね」って、気持ちがよくわかりますよ。うちの家内も、保育園に子どもを入れられず、「私、仕事を辞めなくちゃいけないでしょうか」って泣いてましたもんね。衆議院議員をしていて東京にいたころです。

 その後、たまたま保育園に入れましたが、区立ではなかったので、私立を渡り歩いたりして。もう、保活は大変でしたもん。そういう意味で、子育てや保育のあり方の改善が必要です。介護離職と同じように保育離職というのが起こって、貧困状態になることだってありえます。夫婦共働きでようやく家計が維持できているという家庭は相当数ありますから。

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穐吉洋子
 

カメラマン、ジャーナリスト。

大分県出身。 北海道新聞写真記者を経て、ウェブメディアを中心に記事、写真を発表している。

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