◆モデル事業が始まる前から関係ができていた
香川県警ではこれとは別に、4~5年ほど前から、さまざまな機関と協力する機会が増えている。検察、児童相談所、けがなどを診る病院などだ。
「警察には事件化したら終わりというイメージが昔はありました。今は、たとえ事件化できなくても、将来の家庭環境の構築が大事だ、ということにシフトしています。だから、それに関わる多機関の方々と話さないと、情報が偏ります。各機関で何ができるのかということも、警察は知りませんでした」
つまり、モデル事業が始まる前から、香川県警には他機関の業務を知り、困ったことについては改善を求めたり、歩み寄ったりする関係ができてきた。そのため、CDRのモデル事業に参加した機関の一部にも、警察に対する理解の蓄積があり、捜査情報を全て出せないことについて反発はあまり見られないという。
「警察が情報を出せないのは当然です。でも、どこまでだったら出せるかを、検事さんと話して(出せるものは出すとの判断もある)。CDRは守秘義務が課せられていますし、そもそも、参加する各機関の皆さんに公判を妨害するつもりなんてない。CDRには、子どもの事故や死をなくすという目的がはっきりしているわけですから。(警察も)いきなりシャッターを下ろさないほうがいいのでは。お互いにできることをやっていく。それを続けていけば、いい方向が見えてくるかもしれない」
警察と個人情報の壁。この2つをまとめて、独自に乗り越えようとする地方公共団体も出てきた。モデル事業に初年度から参加する滋賀県だ。
「われわれとしては、できないことの理由がわからん」。滋賀県のCDRを牽引している滋賀医科大学社会医学講座(法医学部門)の一杉正仁教授(52)は、厚労省の手引きの“後退”に強く反発している。「できないこと」とは、捜査情報と個人情報の利用を前提にしないという厚労省の新たな考え方を指す。一杉教授は、この改訂どおりにやると、CDRは完遂できないという。
「目的が達成できないので、非常に不適切です。滋賀県としては、今後もCDRをやっていきたいと考えています。そのときは(厚労省の手引きどおりにはやらず)個人情報も家族の同意なしで、司法解剖の結果も適切に使っていこうと全員の意見が一致しました。法的にも問題ないと確認しています」
滋賀県のCDRには、県警と地検も参加している。そのメンバーも含め、「全員一致」の見解だという。