◆厚労省の方針変更で別のアプローチに変更
滋賀県でも、香川県と同様にモデル事業に着手する前から、助走のような取り組みが始まっていた。県死因究明等推進協議会の取り組みがそれだ。
この中で、子どもの死亡調査を実施。そうした経験が生き、1年目のCDRモデル事業は、過去3年間の18歳未満の子どもの死亡例131人分を可能な限り追いかけ、死に至る経緯を細かく調べることができた。検証だけでなく、シーンごとの予防策の検討にも力を入れた。提言を知事に提出し、「非常にいい結果が出た」と関係者も手ごたえを実感したという。
ところが、2年目は厚労省の方針変更に伴い、遺族の同意を得ることとし、司法解剖の結果も捜査当局に求めない方式に切り替えた。すると、主治医を通じた協力要請に対し、遺族から返事がないケースが出てきた。そうした場合、遺族の同意がないため個人情報を検証に使えない。
捜査情報を求めない前提となったため、司法解剖の結果も利用できなくなった。それを補うため、滋賀県では、司法解剖に回るまでのカルテや行政への提出書類など、別のアプローチで必要情報を収集する、裏技のような手段で切り抜けるしかなかった。
こうした事態を受けて滋賀県は、CDRにおける個人情報の取り扱いや司法解剖結果の使用などの関係法令について、法律の専門家も交えて詳細に検証した。その結果、いずれについても、法的には「問題なし」との結論になったという。
一杉教授は、2021年8月に滋賀県大津市で起きた小1女児暴行死事件に言及した。「妹がジャングルジムから落ちた」と近所の家に駆け込んだ兄が、実は暴行を加えていて、家庭がネグレクト(育児放棄)状態であったいう事件だ。その事実は、家庭裁判所でも認定された。
二度と同じことを繰り返さない、事例検証を通じて子どもの命を守るための対策を講じる――。CDRのその観点から言えば、この事件は検証のテーブルに乗せるべき事案だ。
「そうした家庭の子に何があったのかという原因を調べたり、児童相談所の対応の適否を判断したりするのに、なんで保護者の承諾がいるんですか。どうすれば予防対策を取れるかを検討するのに、保護者の同意を取んなきゃいけないって。バカを言うんじゃないってことですよね」
司法解剖についても、一杉教授には言うべきことがある。
「司法解剖とは、亡くなった原因を明らかにするとともに、その死の背景に犯罪がないかどうかの有無も確認するんです。司法解剖をやって、結果的に犯罪には関係ありませんでしたというケースは、たくさんあります。そういう結果を使っていけないなんて、考えられない」