ミャンマーの怪僧に会いに行く

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ミャンマーの怪僧に会いに行く (2021.5.10 SlowNews)

 ミャンマーの反イスラム主義の精神的指導者であり、「ロヒンギャ難民問題」にも深く関係しているとされる僧侶・ウィラトゥ師。ひょんなことから面会を取り付けた筆者たちが接近した、その姿とは?

◆ロヒンギャ危機のキーパーソン

  ミャンマーの山間部を縫うように走る田舎道は、真っ暗だった。

 「バイク・タクシー」として使われていたスーパーカブの荷台にまたがり、追っ手から逃げるように走っていた。運転手がハンドルを巧みに操る。身体が右へ左へと傾き、揺れる。時刻は夜0時を回ったところだった。ちょうど新月の時期。周囲には家もなく、闇しかない。視覚の情報がほとんど遮られているためか、鈴虫の音色や草の匂いが鮮明に感じられる。

◆「当局が外国人を探している。あんただよ」

 その1時間ほど前、私は「KA ZUN MA(カズンマ)」という区域にある集落にいて、ある寺院で世界的に注視されている僧侶・ウィラトゥ師の説法を取材していた。2018年7月のことである。

 異変が起きたのは、取材の終盤だった。

ウィラトゥ師の説法会場と、記念写真を撮るウィラトゥ師(右から4人目) 撮影=岸田浩和

 夜11時を過ぎてもウィラトゥ師の説法が終わらない。そろそろ撤収しようかなとタイミングを見計らっていると、説法を聞いていた人々がいきなり、わっと帰り始めた。蜂の巣をつついたような騒ぎだ。なにごと? 近くにいた1人が「警察とイミグレーションが来たようだ」と教えてくれた。

 「外国人を探しているようだ。あんただよ」

 ミャンマー政府のイミグレーション(出入国管理当局)は、空港や国境での入出国管理だけでなく、国境とは無関係なエリアでも人の移動を管理している。現地では「ラワカ」と称され、諜報機関として恐れられる存在だ。ミャンマーには、国軍と警察にもそれぞれ諜報部門がある。ラワカを含めて3組織が並び立っている。なかでも、ラワカの監視網は全国各地に細かく張り巡らされており、バスや鉄道、ホテル、繁華街など外国人が利用したり、大勢のミャンマー人が立ち寄ったりする場所では、細かく人の動きをチェックしていると言われている。ジャーナリストが利用するホテルのオーナーがラワカの協力者であり、取材の動向が当局に筒抜けだったというケースもあった。

 しかし、まさか、こんな田舎にまでラワカが?

 私のその認識は甘かったようだ。むしろ、へんぴな田舎だからこそ、よそ者は目立つのだ。普段は集落の者しか来ない寺院に、カメラを持った外国人が来ている。その情報はまたたく間に「彼ら」に伝わったのだろう。

 説法が行われていた寺院の入り口に、腕組みした警官とイミグレーションの担当官が数人いた。明らかに誰かを探している。このどさくさに紛れて逃げ出せないか。そう考えて様子をうかがっていると、私をここまで運んできてくれたバイクタクシーの運転手、ウー・チョウ・アウンが警官らに囲まれているのが見えた。アウンはIDカードを見せたり、首を横に振ったりしながら、あたふたしている。

 まずい。

 すでに脱出のタイミングを逸したようだ。スーパーカブの荷台には、三脚や撮影機材の一部がくくり付けてある。運転手のアウンと機材を見捨てて寺院を脱出しても、この深夜に集落から町へ帰るすべがない。頭を切り替えて彼らのもとに進んで出頭し、どうやって穏便に切り抜けるかに全精力を注ぐことにした。

 「こんばんは、はじめまして。日本から来たキシダという者です。けさ、マンダレーから路線バスとバイクを乗り継いでやって来ました。説法をしているお坊さんの話に興味があり、わざわざ来たんです。私は仏教徒。仏教に興味がある観光客です」

 そう言って、パスポートに手を掛けた。警察官が「なぜ、あなたはミャンマー語が話せるのか?」と言う。その問いには「学生時代に留学していたんです、ヤンゴンに」と答えた。

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岸田浩和
 

ドキュメンタリー監督、映像記者。

立命館大学在学中にヤンゴン外国語大学へ留学し、映像制作に触れる。 光学機器メーカー、フリーランスライターを経て、2012年発表の短編ドキュメンタリー「缶闘記」で監督デビュー。同作で5カ国8カ所の映画祭に入選する。近作の「Sakurada Ze...

 
 
   
 

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