記者逮捕 その時、新聞社で何が起きたか (2021.8.30 SlowNews)
その日、入社わずか3カ月の新人記者が取材中に逮捕された。いったい何が起きていたのか。北海道新聞社の対応は適切だったか。報道界が問われたものとは。「社外秘」とされた多数の内部文書をベースに、関係者の証言も交えながら検証する。
◆第1回 こうして新人記者は逮捕された
コロナ禍の2021年6月、北海道新聞旭川支社の記者が取材中に逮捕された。
取材行為そのものが問題となって記者が逮捕されるケースは、近年の日本では、ほとんどなかったと思われる。事件はその後、さまざまな議論を誘発。SNSやネットでは「記者に特権はない」「取材でひるむことのないように望む」といった意見が飛び交い、議論百出となった。
いったい、現場で何が起きていたのか。
北海道新聞社の対応は適切だったのか。
報道界は何を問われたのか。
「社外秘」とされた多数の内部文書をベースにし、さまざまな関係者の証言も交えながら、「記者逮捕」を検証する。
◆旭川医科大学 繰り返されていた学長の不正・不祥事
国立大学法人・旭川医科大学は、北海道北部の拠点都市・旭川市にある。市の人口は33万人余り。北海道第2の都市とはいえ、キャンパスがある「緑が丘」地区は市街地から少し離れており、広々とした畑がすぐ近くに連なっている。車で小一時間も走れば、絵はがきのようなパッチワークの田園地帯、色鮮やかなお花畑にも行き着く。観光地で名高い富良野・美瑛地区もそう遠くない。
旭川医科大学は、北海道大学医学部や札幌医科大学と並ぶ道内有数の医療系大学だ。教員は350人。病院勤務の看護師や事務職員らを合わせると、スタッフは1500人近くに達し、道北エリアの拠点病院として位置付けられている。稚内市などを含む「道北」は四国ほどの広さがあり、カバーエリアの人口は約70万人。どんな疾病やけがにも対応できるよう、必要な診療科はほぼ全て揃っており、新型コロナウィルスの患者も受け入れてきた。
今年6月22日の火曜日。
この大学では、いつもと変わらぬ時間が流れていた。附属病院では、ひっきりなしにタクシーや自家用車が到着し、患者が玄関をくぐる。一方、同じ敷地内の大学棟は、比較的落ち着いた雰囲気だった。出入りする人もそれほど多くない。
大学棟が静かな理由ははっきりしていた。新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言が発令中で、大学のコロナ対策BCP(Business Continuity Plan)が4段階中の「レベル3」になっていたからだ。このレベルでは、医学部の医学科・看護学科とも3・4年生の講義はすべてオンラインになる。1・2年生も登校を認められるのは半数だけで、残りはオンラインでの受講を指定されていた。両学科の1〜4年生は約810人。そのうち3 分の2がオンライン授業になっていたのだから、閑散としていても不思議はない。
正午をすぎると、気温がぐんぐん上がった。空は気持ちよく晴れている。午後2時には27度を超えて夏日になったが、湿度は30パーセント程度しかない。爽やかな、いかにも6月の北海道らしい1日になった。
その頃、大学の玄関付近に記者やカメラマンが集まり始めた。
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この記事は「記者逮捕 その時、新聞社で何が起きたか」第1回の冒頭部分です。サブスクの「スローニュース」で、2021年8月30日から毎日、計5回が連続して掲載されました。さらに番外編も掲載されています。
北海道新聞の新人記者が取材中に逮捕された事件は、メディア関係者に大きな衝撃を与えました。SNSを通じて、事件の概要は市民にも広がり、取材のあり方や報道の役割などをめぐって多くの意見が飛び交っています。しかし、事件の現場や新聞社内などで何が起きていたかという肝心の事柄は、必ずしも明らかになっていませんでした。フロントラインプレスの高田昌幸代表は「まずは事実を明らかにすることが大事」と考え、数多くの内部資料や北海道新聞社員の肉声を取材し、ノンフィクションとして「記者逮捕」の内実を伝えました。
事件の余波はまだ続いています。展開によっては、さらに続編を公開することになるかもしれません。
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記者逮捕 第1回 こうして新人記者は逮捕された(Slow News)