◆「修正指示の後も不正」をスクープ
国土交通省による基幹統計の“書き換え”問題で、朝日新聞が引き続き調査報道を続けている。年明け後の1月12日には『統計不正、修正指示後も書き換え データ二重計上、国会答弁と矛盾』という独自記事を公開した。この問題で独走する朝日新聞のまたものスクープである。
問題の統計は「建設工事受注動態統計」。国の統計の中でも特に重要とされる基幹統計の1つで、全国約1万2000社の建設業者が都道府県を通して受注額を報告する。ところが、国交省の指示によって都道府県で書き換えが行われ、受注額が二重計上されるようになった。書き換えは2013年度に始まっている。2020年度の実績は約79兆円だった。ただ、調査票の生データが国交省内で消されているため実際の数字を復元できず、どの程度の金額が上乗せされたかなどの詳細は把握できなくなっている。
朝日新聞が1月12日に報じたのは、国交省が「問題に気づき、その時点で修正した」と説明してきた2020年1月以降の統計でも書き換えが行われ、二重計上が続いていたという内容だ。複数の県が朝日新聞の取材に対し、二重計上が続いていたことを認めたという。
「建設工事受注動態統計」はGDP(国内総生産)の算出にも使われており、そのデータが信頼できるかどうかは、国家の信頼に直結する問題といえる。国の基幹統計に関する不正は、厚生労働省の毎月勤労統計でも発覚している。2018年1月に、それ以降の賃金が急上昇する形で数字が修正されていた。続出する統計不正について、経済評論家の加谷珪一氏は『国の基幹統計全体への疑義広まる 先進国の地位から脱落…人権無視の隣国と同レベル』と題する記事で、次のように指摘している。
今回の不正とは関係なく、実は日本の基幹統計については以前から疑問視する声が相次いでいたのが現実だ。日銀は非公式ながらもGDPの算出方法について疑義があるとするペーパーを公表しているし、一部の専門家はGDPの数字が上向くように修正されているのではないかとの指摘を行っている。
統計全体への疑義が生じていたところに、2度の不正が明るみに出たということであり、現段階においてすでに日本の統計に対する信頼は、想定程度、崩壊したと考えてよいだろう。統計が信頼できなければ、当然のことながら、政府が発表する内容全体についても疑義が生じるので、場合によっては民主主義の崩壊につながりかねない。
多くの国民は普段、経済統計とは無縁の世界で生活しているのであまり知られていないが、日本の統計は先進諸外国と比較するとかなり貧弱な状況が続いてきた。統計作業は地味であるがゆえに、貧しい国は、こうした分野に十分なリソースを割くことができない。つまり各種統計を整備することは、民主主義の維持に不可欠なコストであり、ここに十分な資金と人材を割けることは、まさに先進国であることの象徴なのだ。
◆国の統計職員が激減 「統計は国の基本。国が誤る」
加谷氏が指摘するように、国の統計担当職員の削減は著しい。総務省のまとめでは、各省庁で統計に従事する職員は2004年には6247人を数えたのに対し、2018年4月時点では1940人に激減。3分の1以下にまで減っている。政府の統計委員会の初代委員長だった竹内啓・東大名誉教授は当時の毎日新聞の取材に対し、「統計部門を縮小しても、すぐに影響が見えるわけではない。だから予算や人員が削減されやすい」「統計は国の基本。その信頼が失われれば国を誤る」と指摘している。
一方、「建設工事受注動態統計調査」の書き換えをめぐっては、市民団体が昨年12月27日、統計法違反に当たるとして、東京地検特捜部に告発状を提出している。市民団体は国交省の歴代担当者が安倍晋三元首相らの指示を受け、アベノミクスの経済効果が出ているように見せるため、書き換えを行ったと主張している。
『国交省の統計不正問題、いま分かっていること 仕組みや影響を解説』(朝日新聞デジタル 2022年1月12日)
『国の基幹統計全体への疑義広まる 先進国の地位から脱落』(Buisiness Journal 2021年12月31日)
『国交省の統計不正で告発状』(共同通信 2021年12月27日)