◆TikTok動画を“やらせ”拡散 読売新聞スクープ
SNSやアプリなどネット関連の調査報道が、各メディアで年明けから続いている。
読売新聞は1月24日朝刊で、『TikTok運営会社が一般投稿装い動画宣伝/協力者に歩合制報酬、年500万円も』というスクープを掲載した。記事は次のように始まる。
動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の運営会社側が長期間、影響力がある複数のツイッター利用者に報酬を支払い、指定した動画を一般の投稿かのように紹介させていたことが、読売新聞の取材でわかった。「協力者」1人当たりの投稿が年間数千本に上り、報酬額が500万円を超えるケースもあったという。アプリ利用者を増やすのが目的で、宣伝であることを隠す「ステルスマーケティング」の可能性がある。
TikTokはゲーム以外ではダウンロード数が世界一のアプリで、中国企業「バイトダンス」が展開している。読売新聞の記事によると、 TikTok運営企業の日本法人は、10万人以上のフォロワーを持つTwitterのインフルエンサーに働きかけ、本人の自発的投稿であるかのように装ってTikTokの動画を宣伝するよう依頼していた。ステルスマーケティングは、一般の口コミや評判かのように消費者を誤解させる行為で、広告会社などでつくる「WOMマーケティング協議会」が運用指針で禁止している。金銭が介在していれば、広告だと分かるように「PR」などと記載する必要があるとしている。
この問題で読売新聞は1月25、26日にも連続してスクープ記事を公開した。それによると、TikTok日本法人は2年半でインフルエンサー計20人にこうした投稿を依頼。その際、社名を隠していたほか、担当者が偽名を使うこともあった。また、一連のやりとりはビジネスチャットで行われており、双方が顔を合わせることはなかったという。
◆ロシアの“対日工作”? 毎日新聞はヤフコメを対象に
ネット関連の調査報道では、毎日新聞が1月1日、『ロシア政府系メディア、ヤフコメ改ざん転載か 専門家「工作の一環」』を掲載した。
ロシアの政府系メディアが、日本国内最大級のポータルサイト・ヤフージャパンのニュース配信サービス「ヤフーニュース」の読者コメント欄をロシア語に翻訳して転載する際、元の投稿の文章を改ざん・加筆した疑いがあることが分かった。複数の例を毎日新聞が確認した。同盟国・米国からの離反をあおるような内容もあり、専門家はロシアが欧米などを標的に展開する情報工作との類似性や、ロシア国内の世論を固める狙いがあると指摘する。
改ざんの疑いが確認されたのは、ロシアのネットメディア「イノスミ」。スプートニク通信などと同じ政府系メディアグループの傘下にある。
毎日新聞のこの報道によると、ロシアメディアに引用されたヤフコメは大きく改ざんされたり、原文に存在しなかったりした。「日本は大人になり、米国の『スカートの下』に隠れるのをやめる時だ。どうせ危機的な状況で米国は救ってくれないのだから」という実際には存在しないコメントも掲載されていた。同紙の取材では、2021年1月以降にイノスミに転載された日本語のコメントのうち、20件以上で改ざん・加筆が見つかったという。
SNSやネットでいかにも“それっぽく”見える情報に、どんな仕掛けが潜んでいるのか。読売と毎日の調査報道スクープは、そうした落とし穴や罠の危険性を改めて浮き彫りにしたと言える。
『TikTok運営会社が一般投稿装い動画宣伝』(読売新聞オンライン 2022年1月24日)
『ロシア政府系メディア、ヤフコメ改ざん転載か 専門家「工作の一環」』(毎日新聞 2022年1月1日)