◆馳浩知事、819万円の裏金を受領
自民党安倍派(清和政策研究会)による一連の裏金事件に関連し、派閥の政治資金パーティー収入から819万円のキックバック(裏金)を受け取っていたにもかかわらず、その事実を自身が代表を務める政党支部の政治資金収支報告書に記載していなかったとして、馳浩石川県知事が政治資金規正法違反(不記載と虚偽記載)の疑いで、8月2日、東京地検に刑事告発された。ほかに馳氏が代表を務める政党支部の会計責任者ら2人も刑事告発された。
告発したのは上脇博之神戸学院大学教授。
裏金事件に関する自民党の聞き取り調査や清和政策研究会の政治資金収支報告書などによると、馳浩知事は自民党の衆議院議員(石川1区)だった2018年、安倍派の政治資金パーティーのパーティー券収入から100万円のキックバックを受けた。それ以降も、2019年に118万円、2020年に272万円、2021年に321万円、2022年に8万円を受領。2018〜2022年の5年間で総額819万円のキックバックを受けた。
馳氏は2021年10月、任期満了で衆院議員を退任。その後、2022年3月の石川県知事選に立候補し、初当選した。衆院議員だった2018〜2020年の3年間は政党支部「自由民主党石川県第一選挙区支部」がキックバックを受け取り、2021年以降は名称変更した政党支部「自由民主党石川県衆議院支部」が受け取っていた。
馳氏は今年1月21日、石川県内で報道陣の質問に答え、総額819万円のキックバックを受けたことを認めたが、刑事訴追はされていない。
◆刑事告発の中身は?
上脇教授の告発状によると、虚偽記載などの内容は次の通りとなる。
関係する政治資金収支報告書や告発状などによると、馳氏側が受け取ったキックバックのうち、2022年の8万円については、清和政策研究会の収支報告書に日付の記載がない。ただ、同年の安倍派の政治資金パーティーは5月17日に開催されていることから、馳氏は石川県知事に当選した後もキックバックを受け取っていた可能性がある、と告発状は指摘している。
また、告発状は、政治資金規正法が義務付けている会計帳簿において入出金が正しく記載されていなかった疑いがある、とも指摘している。
◆報道陣には「事務所経費に使った」と説明するも、収支報告書の訂正内容に「事務所経費」の記載なし
今年1月22日付の朝日新聞朝刊(石川県内版)によると、馳知知事はキックバックを受けたことを認めた際、報道陣に対し、「一部を政治活動に必要な旅費や通信費などの事務所経費として支出をしたと(秘書から)聞いている」と述べた。しかし、その後に訂正された2020年以降の収支報告書には、安倍派からのキックバックが収入欄に追加されたものの、支出額は訂正されていない。つまりキックバックは全て繰り越されている。馳知事の「事務所経費として使った」という発言と訂正内容には大きな矛盾がある。
また、同じ記事によると、馳知事は「(秘書が)清和研から『(政治資金)収支報告書には記載しなくてもよい』と聞いていた」と説明している。これらのことから、安倍派からのキックバックは政党支部に対してではなく、馳知事個人へキックバックされていたのではないかと告発状は指摘しており、「これらの疑惑についても捜査を尽くして真相解明し刑事事件として立件するよう」求めている。
◆上脇博之教授のコメントは?
刑事告発した上脇教授は、能登半島地震の対応が落ち着くまでは告発を控えていたとし、そのうえで次のように語っている。
「馳知事は安倍派からキックバックされた寄付収入について『一部を政治活動に必要な旅費や通信費などの事務所経費として支出』した旨、説明しておきながら、訂正された2020年以降の収支報告書の支出欄を確認しても、その支出は一切記載されていません。私が刑事告発した堀井学衆院議員(比例・北海道ブロック、自民党を離党)は公選法違反の寄付をしていた疑いが浮上し家宅捜索を受けました。馳知事も同様の違法支出または不適切な支出に充てたのではないかと疑われても仕方ありません。説明責任を果たすべきです」
馳知事は1984年のロサンゼルス五輪にレスリングで出場した後、1995年に参議院に初当選、その後2000年に衆議院に鞍替え。2021年まで国会議員を務め、文部科学大臣などを歴任した。2022年3月に石川県知事に初当選した。現在は日本維新の会顧問も務めている。