「ネアンデルタール人は核の夢を見るか」地方局の秀作

  1. 調査報道アーカイブス

「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜高レベル放射性廃棄物の行方〜」 北海道放送(2021年5月)

 

[ 調査報道アーカイブス No.13 ]

 2020年8月、北海道の西海岸に位置する寿都町と神恵内村が、原発から出る「高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)」の最終処分地選定に向けて、その第一歩となる「文献調査」に応募すると表明した。両町村とも典型的な過疎の村だ。寿都町は年間予算が2億円しかない。そんな2町村にとって、文献調査に応じるだけで「2年間に20億円」という国からの交付金は大きな魅力だ。しかし、安全な線量になるまで10万年を要するという人類的プロジェクトを自治体の都合や判断で進めていいものかどうか。

 北海道放送(HBC)のドキュメンタリー番組「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜高レベル放射性廃棄物の行方〜」は、その問いを忘れないための良質なドキュメンタリーであり、とくに、北海道以外の人たちが視聴すべき番組だ。

(北海道放送提供)

◆受け入れに疑義、町職員を辞めて漁師に

 番組は38歳の男性を軸に進む。北海道大学で水産を学び、その技術を漁業振興に活かそうと、寿都町職員になった。かつてニシン漁で栄えた寿都町は、最盛期の明治時代には2万人を超す人たちが住んでいた。いま、その面影はなく、人口は3000人弱しかない。町の年間予算規模も2億円。典型的な過疎の町だ。それでも、豊富な水産資源を活かそうと、男性は奔走してきた。

 ところが、町が突然、「文献調査」の受け入れを表明したことで、男性の気持ちは揺れ動く。
 「調査に協力して、交付金をいただいて、それに基づいて水産振興した先に最終処分場が来たときに、最終処分場と漁業って共存できるんだろうか」
 男性は、核のゴミ捨て場を寿都町につくることには強い疑問を抱いていた。さりとて、町職員のままでは、意思表示をしにくい。結局、男性は職を辞して漁師になり、高レベル放射性廃棄物の処分場に対して堂々と「NO」を言える立場を選んだ。

 番組では、その他にも住民らの揺れる様子が描かれる。
 この男性の長男は、町内の集会でこう訴えた。
 「原発はトイレのないマンションと言われますが、寿都町は原発のトイレになってしまうのでしょうか。僕の弟は寿都町で生まれ、1歳になったばかりです。弟はトイレの町で育っていくんですか」

 いま進められている計画では、国内の原発から出る核のゴミを1カ所にまとめて深度300メートル以上の地下に埋設(地層処分)する。安全になるには10万年かかるという高レベルの放射性廃棄物。10万年前と言えば、ネアンデルタール人が初めて花を愛でたとされる時代だ。そんな遠い途方もない時間と向き合おうとしているのだ。仮に地層処分という方法が可能だとしても、寿都町はそれに適した土地なのか。

高レベル放射性廃棄物「核のゴミ」を閉じ込めた専用容器=番組から(北海道放送提供)

 番組では、旧動燃(動力炉・核燃料開発事業団)が全国を対象として1988年に密かに実施していた地層調査の内容にも触れる。事故を起こした福島原発が立地する福島県大熊町・双葉町でさえ、「適地」とされた調査。その同じ調査において、寿都町は活断層があるため地中での処分には適さないとされていた。その調査を担当した動燃の元主任研究員は「日本の場合、地殻変動で岩石が壊された部分が多い。日本で地層処分は難しい。いや不可能」と番組内で語っている。

 「10万年先に科学者は責任を持てない。いまの科学はそんなに万能ではない」と言う科学者たち。10万年後の世界をいったい誰が想像できるのか。10万年後まで責任を持って核のごみを処分できるのか。その安全は誰が保障するのか。処分地の決め方はどうあるべきなのか。

◆「寿都町や神恵内村だけの問題ではありません」

 番組のプロデューサーで取材にも携わったHBC報道局の山崎裕侍・報道部編集長はフロントラインプレスに対し、「事業を担うNUMO(原子力発電環境整備機構)が公表する資料は数百ページに及び、専門的な記述で埋め尽くされています。その一つひとつを理解し、検証報道するには時間や労力がかかります」と言い、さらに次のように語った。

 「国内の核のごみを1カ所にまとめて地下に埋設するわけですから、これは日本全体の問題です。にもかかわらずこの問題が全国的に大きく報じられることはありません。道民も『寿都町の問題』『神恵内村の問題』として、他人ごとと感じている人も少なくありません。核のごみ処分は国策である核燃料サイクルが前提です。膨大な費用をかけて破綻寸前の事業を進めるに疑問の声が上がっています。使われるのは税金や電気代です。核のゴミは、つまるところ、国民一人ひとりが問われている問題です。番組を通じ、原発のあり方も含めて『自分ごと』として考えてもらえたらと思います」

 「ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜高レベル放射性廃棄物の行方〜」は2021年5月、道内のみで放送され、その後、BS-TBSでもオンエアされた。現在はYou Tubeで全編が公開されている。

■参考URL
ネアンデルタール人は核の夢を見るか〜高レベル放射性廃棄物の行方〜(北海道放送)
YouTube 「『今日ドキッ!報道スペシャル ネアンデルタール人は核の夢を見るか~高レベル放射性廃棄物の行方~』2021年5月29日放送」
文献調査の状況(原子力発電環境整備機構)

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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