「また人が殺された」―コロンビア貧困地区、若者たちの絶望と希望

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「また人が殺された」―コロンビア貧困地区、若者たちの絶望と希望(2018・10・29 Yahoo!ニュース特集)

 サッカーW杯ロシア大会で日本がコロンビアと対戦したのは、今年6月だった。コロンビアにとっては「まさか」の敗戦。そして絶対負けられない第2戦でポーランドに勝利し、コロンビア国民は熱狂した。「また人が殺された」との情報が入ってきたのは、その直後だった――。
コロンビアで半世紀以上続いた反政府ゲリラ「FARC(コロンビア革命軍)」と政府の争いは、2016年の和平合意で終わりを迎えたはずだった。あれから2年。今もなお紛争が続く町では、激しい抗争と暴力の中で、希望を見つけようと必死に生きる若者たちがいる。

撮影:柴田大輔

◆W杯の日 「また人が殺された」

 「また人が殺された」という話が伝わったのは、太平洋沿いにあるトゥマコ市の貧困地区だった。
コロンビアでは、数十に区画された居住地を「バリオ(=地区)」と呼ぶ。トゥマコでは市街地の「バリオ」は貧困地区と重なることから、言葉そのものが「貧困」と「暴力」を象徴するようになった。

土地が不足する「バリオ」では、桟橋沿いに家が建てられていく(撮影:柴田大輔)

 W杯のグループリーグ第2戦。
バリオのある雑貨店で白昼、住民たちはテレビを取り囲んでいた。前半40分、同国が生んだスター、ハメス・ロドリゲス選手のクロスに味方の選手が頭で合わせて1点を先取すると、試合はコロンビアのゴールラッシュになった。3-0。快勝の瞬間、バリオのあちこちでまさに地響きのような大歓声が沸き上がった。
その直後である。
「人が殺された」という情報が入った。
現場へ向かうと、人だかりの中に若者が2人横たわっており、頭から赤黒い血を流している。知人は「対立する武装組織同士の抗争だ。状況は悪い。多くの人が殺し合っている」と言う。W杯で沸いたこの週、トゥマコの市街地で13件の殺人事件が起きた。

W杯の日に起きたトゥマコ市の殺人事件(撮影:柴田大輔)事件現場で泣き崩れる女性たち(撮影:柴田大輔)

◆殺人発生率は世界一

 太平洋岸の港町トゥマコ市には約20万人が暮らしている。面積は埼玉県とほぼ同じ。沿岸部はマングローブの森に囲まれ、郊外には広大な農村地帯が広がる。住民の約9割はアフリカにルーツを持つアフロ系の人々だという。
トゥマコでは近年、左派系ゲリラや右派の準軍事組織、政府軍などの対立によって激しい暴力が続いてきた。
2016年の和平合意で大きな勢力を誇った「FARC」が消えると、今度は空白となったその地域の支配権をめぐり、複数の武装組織の間で対立が激化してきた。暴力の連鎖は消えていない。関係機関によると、2000年以降、現在までに死者は3500人以上に達し、8万人以上が避難民になった。

トゥマコの住民にはアフリカ系の文化が受け継がれている(撮影:柴田大輔)

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柴田大輔
 

フォトジャーナリスト。

1980年、茨城県生まれ。写真専門学校を卒業後、フリーランスとして活動。ラテンアメリカ13カ国を旅して多様な風土と人の暮らしに強く惹かれる。2006年からコロンビア取材を始め、生活を共にしながら住民の側から見た紛争、難民、先住民族、麻薬問題を取材。その他...

 
 
   
 

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