大議論を呼んだゲーム条例 パブコメの“闇”も突いた地方テレビ局の執念

  1. 調査報道アーカイブズ

◆「今までの調査報道と比べて特筆されるものではない」と記者は言うが…

 ゲーム条例の問題はその後、条例制定プロセスを検証する委員会の設置を求める意見が3会派から出たが、議長は拒否。さらに住民からの同様の陳情も否決された。一方、条例そのものが憲法の保障する基本的人権に抵触するのではないか、という声も強まった。弁護士らが次々と反対の見解を表明したほか、香川県内の高校生は「条例は基本的人権を侵害するもので憲法違反」だとして、同年9月、県を相手に提訴。裁判は今も高松地裁で続いている。

 取材の中心にいたKSB瀬戸内海放送の山下洋平記者は「地方メディアの逆襲」の中で、松本創氏のインタビューに対し、こう語っている。

 「一連の報道への反響は特にネット上で大きくて、もちろん注目していただけるのはありがたいんですけど、自分としては、今までやってきた調査報道と比べて、特筆されるものとは思ってないんです。情報公開請求は普通に使う取材手法ですし、だからこそ他の新聞社もやっている。不審なパブコメを見つけたといっても、誰が見ても一目瞭然でしたから。まあ、記者の基本動作を丹念にやったという感じでしょうか」

 施行後もその是非が問われる異例のゲーム条例。それが導入されたのはなぜか。条例の中身と制定過程の問題点について検証する一連の放送は、地方メディアの意地を見せつけるかのような、見事な調査報道だった。一連の経緯を余すことなく示したドキュメンタリー番組「検証・ゲーム条例」は2021年の「日本民間放送連盟賞」のテレビ報道番組部門で優秀賞を受賞した。その際、こう評されている。

「番組は、情報公開請求で開示されたパブリックコメントの原本を用いて賛成意見の水増し疑惑を詳細に伝える。さらに施行後も問われる科学的根拠の希薄さ、法令が家庭生活に介入することの是非、制定過程への疑問などについて、さまざまな声を集め、多角的に検証している。丁寧な取材で俗信を振りかざす地方議会の劣化を浮かび上がらせ、制定を誘導した疑惑に対する問題意識からも報道機関の役割と責任を感じさせる調査報道として秀逸である」

■参考URL

「検証・ゲーム条例」(KSB瀬戸内海放送制作、youtube)

「ゲーム条例」報道に関する特設ページ(KSB瀬戸内海放送)
FM東京のレギュラー番組「TOKYO SLOW NEWS(フロントラインプレス協力)」から。KSBの山下洋平記者が出演「ネット・ゲーム依存症対策条例」(2020年7月7日放送)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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