◆地道な“資料めくり”が続く 「なんだよ、みんな早く帰っちまって」
チューリップテレビの砂沢記者らは、情報公開によって市議40人の政務活動費の支出伝票を請求し、1枚ずつ紙をめくって「公費である政務活動費を一体何に使っているのか」を洗いだすことにした。その数は約4300枚。それをたった2人でチェックしていくのである。通常勤務を終えた夜8時以降、ほぼ毎日、誰もいない報道フロアで伝票の山と向き合う。恐ろしく地味で地道な作業の中で、2人はつい、愚痴も口にする。
「このところ家族ともほとんど話していない」
「趣味の時間もとってない」
「録りだめたテレビ番組も放置状態」「なんだよ、みんな早く帰っちまって」
「『手伝おう』の一言ぐらいあってもいいじゃないか」
こうした深夜の地道な調査が一連のスクープの源だったのである。取材の中核だった砂沢氏は2020年8月、フロントラインプレスの取材に対し、次のように語っている。
調査報道自体は特別な取材ではない。疑問に思ったことを、しつこく、諦めずに取材し続けることであり、ごく普通の取材です。問題は取材の途中で、先が見えないことでした。
◆「どこまで取材できるかの壁は外部の圧力ではない」
『ニュース6』のキャスターだった五百旗頭氏はフロントラインプレスにこう話した。
調査報道に限らずほかも同じですが、どこまで取材するかの壁は、外部からの圧力ではなく記者の心理的な障壁が大きいと思ってきました。取材の出発点は、普段から純粋に思っていることだったり、些細な疑問だったりですよね? そこからスタートし、いかに根気よくやっていけるか。
『こんな取材をやっていたら取材先や権力側が怒るんじゃないか』とか『社内の上層部が好ましく思わないんじゃないか』とか、そういうことを考える人は少なくないと思うのですが、それでは取材が進まなくなる。
富山市議14人の辞職をめぐる報道では、他メディアの存在も大きかった。とくに地元紙・北日本新聞の報道は見逃せない。同紙は富山市議問題の少し前、富山県議の政活費不正を調査報道でスクープし、目の前の地元権力であっても敢然と向き合う姿勢を示している。さらに富山市議の報酬の引き上げに関しては、市議を取材中の同紙女性記者が相手から怒鳴りつけられ、押し倒され、取材メモを奪い取られる事件も起きた。そうした出来事にも全くひるまず、チューリップテレビとの間で“議員ドミノ辞職”に関する報道合戦を続けていくのである。
◆北日本新聞「地元紙はしつこく見ている」が重要
一連の報道で、チューリップテレビは日本記者クラブ特別賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞、民間放送連盟優秀賞(テレビ番組報道部門)、菊池寛賞などを、北日本新聞は新聞協会賞、JCJ賞を受賞した。北日本新聞の取材班代表だった片桐秀夫氏は日本新聞協会への寄稿「読者に代わって調べ、伝える」でこう記している。
政務活動費不正の背景の一つに、議員たちの「見られていない」という意識がありました。問題が発覚した16年以降、富山県内の各メディアが競うように議会を取り上げ続けてきましたが、5年後の今はどうでしょうか。21年4月の富山市議選では、政務活動費にほとんど触れないメディアもありました。やはり、問題の「風化」は著しいと感じます。
北日本新聞は富山市議選に際し、有権者の判断材料にしてもらおうと「富山市議会のいまドミノ辞職から4年」という連載を掲載し、政務活動費や基本条例、議員提出の政策条例などをテーマに深掘りしました。
そういうこともあって「民意と歩む」のワッペンを使い続け、政務活動費をはじめ議会改革に関するニュースは小さなことでも記事にするようにしています。
地元紙の北日本新聞はしつこく見ているぞ、という雰囲気を出すこと。それが大切なのではないかと片桐氏は言っているのだ。そして、次のようにも言っている。
一連のキャンペーンをはじめとする調査報道は時間もお金も手間も人手もかかります。ノウハウも必要です。個人が議会を傍聴したり、政務活動費の使途を調べたりして情報発信するのは簡単ではなく、限界もあります。そこに、新聞の役割を見いだせると思います。
■参考URL
単行本『富山市議はなぜ14人も辞めたのか 政務活動費の闇を追う』(チューリップテレビ取材班)
単行本『民意と歩む 議会再生』(北日本新聞社編集局著)
ドキュメンタリー映画「はりぼて」(チューリップテレビ制作)
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