ヤジすら飛ばせないのか? 「小さな自由が排除された先」に何があるのかを見通した番組

  1. 調査報道アーカイブズ

◆自由の価値はジンジャエール並みなのか

 『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』は、日本ジャーナリスト会議賞やギャラクシー賞奨励賞など多数の賞を受けた。作品のプロデューサーだった北海道放送の山崎裕侍編集長は朝日新聞のインタビュー記事『ジンジャエールあげるから黙れ』の中で、おおむね、次のように語っている。

 (当日は)異様でしたね。『安倍やめろ』と大声を出したとはいえ、1人の一般市民を何人もの警察官が取り囲み、一瞬のうちに数十メートル後方に離していった。周囲とトラブルがあったわけでも、暴力沙汰が起きそうな危険性があったとも思えない中で、ああいうふうに排除するというのは恐ろしいなと思いましたね。

 道警は、最初にヤジを飛ばした男性だけでなく、『増税反対』とヤジを飛ばした女性や、別の場所では年金問題を批判するプラカードを掲げた女性も排除していました。警察官はジンジャーエールを買ってやるから黙れ、というふうな言い方を女性にしていました。警察官が、言論の自由をジンジャーエールの値段ぐらいにしか思っていなかったとすれば、それは違うだろうと。また、札幌駅前では大勢の自民党支持者らが『安倍政権を支持します』と書かれたプラカードを掲げていましたが、それに対しては何も言わずに、政権を批判するプラカードは下ろすよう干渉しました。掲げている内容で排除する、しないを決めるのはおかしいと思いました。

ドキュメンタリー番組『ヤジと民主主義』(北海道放送HPから)

◆警察はマスコミを無視している

 総理の街頭演説とあって、当日は地元メディアも数多く詰めかけていた。ヤジ排除は、その中で行われた。番組の中で、元道警釧路方面本部長の原田宏二氏は取材に来た北海道放送の記者に向かって、次のように指摘する場面がある。

 今回の場合、恐ろしいなぁと思ったのはね、たくさんのマスコミのカメラのいる前で堂々とやったってことです。あなたたちは無視されたんですよ。

 番組を取材した記者は「その言葉を聞き、ハッとさせられました。ショックでした。この問題は、私たちメディア側も問われているんだ、と気づかされました」と言い、山崎氏は「報道機関が当局を批判しなくなり飼いならされているという原田さんの危機感を感じた」と言う。与野党を問わず、政治家に対してヤジすら飛ばせない社会はおかしくなる。それが番組の結論である。

■参考URL
『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』(YouTube 北海道放送公式チャンネル)
『「ジンジャーエールあげるから黙れ」ヤジ排除と民主主義』(朝日新聞 2021年7月14日)
『「ネアンデルタール人は核の夢を見るか」地方局の秀作』(調査報道アーカイブス No.13)

1

2

高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

関連記事