「返せなければ腎臓を売ります」 ヤミ金被害の実態に光を当てた初の本格キャンペーン

  1. 調査報道アーカイブズ

◆止まぬ反響、取材はヤミ金業者へ

 「もう少しで借りようと思っていた」「こんな怖いものとは知らなかった。早く相談に行きます」「親戚が借りてしまって大変な目に遭っている」―。第1部の5回の連載には手紙やメール、電話で想像以上の反響が寄せられた。阪口記者は出社すると、記事を読んだ読者からの電話番ばかりという日々が続く。

 読者の声にも後押しされた第2部(9回)は、「多重債務者」をテーマに由美子(51)、幸枝(32)、民雄(55)からの丹念な聞き取りで構成されている。このうち、幸枝は自己破産した友人の連帯保証人として50万円の負債を背負い、利息が払えずにヤミ金に手を出し、2人の娘と心中直前にまで追い込まれた。この幸枝をめぐる4回の記事は、とくに胸に響いた。

 取材はヤミ金業者へも向かった。第3部(15回)のテーマは「業者の内幕」。弁護士には、債務整理で応対した中から「あまり怖くない人」を紹介してもらい、知り合いの警察官にも頼み込んでヤミ金業者への取材を取り持ってもらった。東京のヤミ金業者の被害に遭っている人は地方に多いことから、貸金業者が集うインターネットの掲示板を利用して在京の2人の業者にもコンタクトを取った。

 「人殺しとか鬼とか言われたけど、関係ない。貸した金、返してもらって何が悪いの」「死んだら香典(を取ってくるのは)、常識っすよ」―。情け容赦のないヤミ金業者。その取材を通し、「常識の通用する人種ではない」ことを思い知ったという。

 連載企画は2002年11月の第1部から翌03年6月の第4部(10回)まで続いた。そのスタートに合わせるかのように日本弁護士連合会は02年11月22日、ヤミ金融撲滅に向けて「ヤミ金融対策法」の制定を求める意見書を国に提出した。世論の高まりを受けて連載終了後の03年7月には、貸金業登録審査の強化と違法取り立ての規制強化などを盛り込んだ「貸金業規制法と出資法の一部改正法」(ヤミ金融対策法)が成立した。

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◆連載が終わっても事件は終わらない

 それでも、事件が終わったわけではない。連載が終わっても法が成立しても、ヤミ金被害に遭った人たちは各地を転々とし、ときに自死や心中を選ぼうとするほど苦しんでいた。

 一連の取材の経緯は『ジャーナリズムの方法』(早稲田大学出版部)に詳しい。早稲田大学での講演をまとめた同書で、阪口記者はこう書いている。

 私たちは、いろいろ担当も変わる、異動もある、という中で、一過性で終わってはいけないな、と。一つ仕事をした、一つ記事を書いたというだけで、問題は終わっていないということが常にあります。例えば事件が起きたら被害者のところへ行く。コメントを取ってかえって来る。一カ月、一年経って、それで終わりにしていいのかということです。

 コロナ禍の現在、生活資金に窮した市民をターゲットに「給与ファクタリング」「買い取り金融」などと呼ばれる新手のヤミ金が、インターネットを使って動きを活発化させている。警鐘を鳴らす新聞・テレビ報道は散発的に見かけるが、腰の据わったキャンペーン報道は寡聞にして知らない。

■参考
単行本『ジャーナリズムの方法』(早稲田大学出版部)
単行本『ドキュメント ヤミ金融を追う』(西日本新聞社会部 ヤミ金融取材班)
中公新書『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(小島庸平著)
『将来の給与狙う“ヤミ金”悪質ファクタリング 法規制なく年利1300%も』(西日本新聞 2020年10月30日)
『「ボクのうちにお金あらへん」子どもの投書に突き動かされた「警官汚職」報道と「賭博ゲーム機追放」キャンペーン』(調査報道アーカイブス No.43)

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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