朝日新聞(1983年〜)
[ 調査報道アーカイブス No.88 ]
◆東京医科歯科大の腐敗
医学部教授のポストをカネで買うー。そんな話を耳にしたとしても、現在ならそう驚かないかもしれない。医療とカネの“黒い関係”をめぐる話は、いくらでもある。ただ、今から40年近く前の1983年7月、朝日新聞の調査報道スクープで暴かれた東京医科歯科大のスキャンダルは、世を震撼させた。大学医学部の腐敗をテーマにし、大人気のテレビドラマにもなった山崎豊子の小説「白い巨塔」。それを現実のものとして見せつける結果になったからだ。
1983年7月19日、朝日新聞1面に次のような大見出しが踊った。医学部第1外科教授の選考に絡んだ贈収賄という、当時としては前代未聞の出来事。後に刑事事件にまで発展する出来事の幕開けだった。
『医学部教授選出で現金 国立・東京医科歯科大』『菓子箱入り400万円 候補者の医学博士 別に“車代”100万円』
現金を受け取ったのは東京医科歯科大麻酔科のX教授。現金を贈ったのは教授選に立候補していたYとZの2人である。教授選で便宜を図ってもらうため、Yは400万円、Zとその支持者は200万円を贈っていた。ところが400万円を渡したYは落選してしまう。Yは憤慨し、金銭の授受の証拠となる録音テープを朝日新聞に持ち込んだ。そこから朝日新聞の取材はスタートする。
◆何かにつけカネ、カネ 論文はデータ盗用、家族で医療機器会社を経営
取材が進むにつれ、日本の医学界に君臨する東京医科歯科大では、想像以上の腐敗が進んでいたことが見えてきた。X教授は、大学の博士号の授与に関しても寄付金を要求。妻は医療機器販売会社を経営し、利益の中からX教授にカネを渡していたことも明るみに出る。研究論文の作成でも、他人のデータを盗んでいた。「医は仁術」の言葉など、どこ吹く風である。当時の「医局制度」はそれほど権力を教授に集中させていた。
腐敗とその広がりは、朝日新聞の見出しを以下のように並べるだけでも見えてくる(実名はイニシャルに変更)。
『医歯大疑惑 X教授の金銭感覚 まるで不動産業』
『料亭でも100万円 博士、認める』
『51年教授選でも疑惑 医歯大のX教授 手を出し運動資金を要求 「私は成功報酬主義」』
『X邸に医療機器会社 社長は妻、子も取締役「職務」にからむ疑い』
『「ゲタハカセ」乱造 論文データ大半提供 研究、週1、2回でOK X教室医局員が証言 寄付金用途は教授が決定』
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