子どもの死を防げるか 試される「ど真ん中政策」 こども家庭庁とCDR【1】

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◆やりたくても法律がなければ動けない

 子どもの死亡検証は、これまで手つかずの分野だった。自分の子が亡くなっても、死亡した経緯がわからない。そんなケースが後を絶たなかった。

 国会議員になりたてのころ、その事実を知った自見議員は、子どもの死亡検証を行政が責任をもって遂行できるように、法律を作らなければと判断。その後、成育基本法(2018年12月成立)、死因究明等推進基本法(2019年6月成立)が次々に施行され、子どもの死亡検証は一応、「行政がやるべきこと」に含まれるようになった。ただ、これらの仕組みは文部科学省や厚生労働省が中心となって所管する、依然とした縦割りだ。そこからこぼれ落ち、検証されないままのケースも出る。あるいは、他省庁や他機関の協力が得られず、十分な検証ができないケースもある。

 省庁横断的なこども家庭庁は、そうした隙間を埋め、CDRを実りある形で導入できるはずだ。「こども家庭庁ができたらうまくいく」と自見議員が力説する背景には、こうした事情がある。

 小児科医でもある自見議員がCDRと出合ったのは、東京大学医学部に入局したころだったという。手伝った研究がCDRにつながる内容だった。決定的だったのは、その後、一般社団法人「吉川慎之介記念基金」代表理事の吉川優子さん(50)と出会ったことだ。吉川さんは2012年7月、私立幼稚園に通っていた5歳の息子を川の事故で亡くし、その後は水難事故予防の活動を続けている。

 自見議員にしてみれば、吉川さんは極めて良識的な人だった。

 普通の立派なお母さんが、自分の子どもが突然亡くなって、『なぜ子どもが死んだのか知りたい』と言っているのに、そのシンプルな問いに社会が答えられていなかった。

◆激烈な縦割りでたらい回しに遭っていた

 当時は、0~6歳の子どもを主に対象とした「教育・保育施設等における事故報告集計」(内閣府取りまとめ)もなかった。

 激烈な縦割りだったんです。今でこそ内閣府が取りまとめて、ゼロロク(0~6歳)の子どもの事故については、必ず自治体をかませて、たらい回しがないようにすることができています。けど、吉川さんのときはそういう仕組みもない。私立幼稚園は文科省だと言うので文科省に問い合わせたら、それは自治体だと言われて、自治体に行くと、それは文科省だって……。吉川さん、もう、とにかく、たらい回しに遭っているんです。自分の子どもの死因究明で。

 吉川さんのそうした話は、聞くだけでとにかくつらかったという。

 一人っ子の男の子を亡くしているから、もう子どもはいないんですよ。子どもが亡くなったというだけで、吉川さん、とてもつらいのに、それ以上のつらさと苦しみを与えているわけですよ、社会の仕組みが。正直、なんてひどい国なんだと思って。グリーフケアするならまだしも、『遺族のお母さんにこんな思いさせる国って何なの!』って思ったのが最初ですね。

 1期目だった自見議員は、吉川さんからたらい回しの話を聞いた後、すぐに関係省庁の担当者を呼んだ。文科省、内閣府、法務省、警察庁……。ところが、いずれの担当者も「自分の所管じゃない」と言い出した。

 子どもが1人死んで、 お母さんもこんなに苦しんでるのに、よく関係ないって言いますね、と無茶苦茶怒ったんですよ。でも、その怒りは私が新人だったから。その後、議員活動をしていて、わかったんです。行政というのは法律を基にして動く。でもCDRは法律がない。だから、彼らがいかに使命感を持っていても、やりようがない。担当者も気の毒だなと。

オンラインで講演する吉川優子さん(撮影:穐吉洋子)

 

 CDRの根拠となる上述の法律が2つでき、省庁横断的な施策を可能にするこども家庭庁も2023年4月に創設されることが決まった。だが、調査権限をCDRの担当者に与えることについてなど、課題はいくつかある。「だからもう1回立法が必要」という。

 自見議員によると、課題の1つに解剖がある。解剖は、死因究明に重要な役割を果たすが、現状では実施率が10%程度にすぎない。吉川さんのケースでも、解剖は行われなかった。事故直後は、子どもの体にこれ以上傷をつけたくないという思いが強かったからだ。しかし、解剖を選択しなかったことが、吉川さんを後悔させることになった。取材班が取材した他の遺族からも、似たような経験が語られている。

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益田美樹
 

フリーライター、ジャーナリスト。

英国カーディフ大学大学院修士課程修了(ジャーナリズム・スタディーズ)。元読売新聞社会部記者。 著書に『義肢装具士になるには』(ぺりかん社)など。

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