◆切実な内部告発、膨大な資料とともに
「監査法人トーマツ及び監査法人業界を更生させる手段は、これより他にはもうありません」――。
われわれのもとにこんな切実な文面とともに送られてきたのは、トーマツに関するある重大な問題の概要を説明する文書と、それを補足する膨大な資料だった。それらは内容ごとに3つのフォルダに分けて収められ、さらにその中に資料の種類ごとにフォルダやファイルが階層的に収められ、さらにその中に……といった具合に極めて体系立てて整理されている。
資料の中身は、監査法人トーマツが自身の決算を粉飾していた疑いを濃厚に示唆する、にわかには信じがたいものだった。その送り主はトーマツに所属する匿名の公認会計士である。
そんな本文で始まるスクープが、阿部重夫責任編集の新メディア「ストイカ・オンライン」と、調査報道を軸とするサブスクの「スローニュース」に同時掲載された。デロイトグループの監査法人トーマツの決算が粉飾されているのではないかという疑惑を内部告発と綿密な取材に基づいて伝えるものだ。取材を手掛けたのは、オリンパスの粉飾決算を調査報道で明るみに出した山口義正記者(チーム・ストイカ所属)。日本の四大監査法人の一角、有限責任監査法人トーマツを、内部告発資料に基づき3年越しで追跡した調査報道である。
浮かび上がったのは、顧客の企業向けにはソフトウェアの会計の「一括費用処理」を推奨しておきながら、自らの経理では法外な額の資産計上を行い、しかも資産計上しなければ赤字決算になっていた事実だった。
2008年に発覚した日本IBM系のニイウスコーの循環取引でも明らかなったように、無形資産であるソフトウェアはしばしば粉飾の温床になる。このため監査法人は顧客企業を厳しくチェックしているが、トーマツが自社の労務・人事管理システムで行った資産計上は、「灯台下暗し」の二枚舌と言えないか。トーマツ内で疑問に感じた会計士が内部告発、弁護士らの調査委員会が設けられましたが、調査は事実上打ち切られている。内部告発者は金融庁にも公益通報したが、結局うやむやになった。その内部資料をストイカで入手して綿密に分析し、実態を明らかにしていく。そしてグループ内での付け替えなど複雑な操作の末に、赤字決算回避のための方便だった疑いが出てきた。
この事態はどんな影響を及ぼしそうなのか。記事の一部を引用しよう。
◆3000社を超す顧客企業で「監査漂流」も
トーマツと言えば、日本における4大監査法人の一角であり、監査先の上場企業は2021年5月期末時点で約800社を数え、新日本監査法人やあずさ監査法人などと並んで、全上場企業の2割を超える。その顔触れは花王、ダイキン工業、キーエンス、村田製作所、伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、ソフトバンクグループ、三菱UFJフィナンシャルグループといったTOPIX Core30の組み入れ銘柄をはじめとする錚々たる顔ぶれである。非上場企業や独立行政法人、国立大学法人などを合わせると被監査会社数は優に3000社を超える。
もしもトーマツの決算に粉飾が見つかるようなことがあれば、トーマツはただでは済まないし、場合によっては3000を超える監査先は監査を受けられずに「監査漂流」を起こしてしまう恐れさえ出てくるだろう。その場合、特に上場企業への影響は甚大で、上記の日本を代表する銘柄群は有価証券報告書を作成することもできず、株式市場や資本市場が大混乱に陥るのは想像に難くない。
このスクープ記事は、以下のような見出しに沿って進む。
・3000社を超す顧客企業で「監査漂流」も
・業務基幹システムを合同会社に有償譲渡
・ソフト自社開発は費用計上が一般的
・複雑なソフト会計に自ら解説書
・「高額すぎるのでは」と16年に内部調査
・「ソフトで粉飾」ニイウスコーの監査法人
・資産計上しなければ赤字転落
・実は意見一致せず調査打ち切り
・使い勝手悪く断続的にシステム障害
・グループ分担金を還流させたのか
記事は3回に分けて掲載される。
※調査報道サイト「ストイカ」は、われわれ「フロントラインプレス」と提携関係を結んでいます。ストイカには『監査法人トーマツに自己粉飾疑惑』のほか、『「田中」日大の政官共犯者 松野官房長官「黒塗り」の足跡』といった調査報道スクープ、さらには重厚な読み物も掲載されています。また、フロントラインプレスは調査報道やノンフィクションのサブスク「SlowNews」との協働も続けています。
■関連URL
阿部重夫責任編集の新メディア「ストイカ・オンライン」での公開記事『監査法人トーマツに自己粉飾疑惑』
SlowNewsでの公開記事『監査法人トーマツに自己粉飾疑惑』
「オリンパス事件」報道 無名の企業人たちの支えで(フロントラインプレス 調査報道アーカイブスNo.18)