政治とカネの調べ方 政治資金・前編

  1. How To 調査報道
◆報告書、どこに目をつければ?〜鳩山由紀夫・元首相のケース

 ――政治資金収支報告書を手に入れたとします。まず、何を見ていけばいいでしょうか。この書類のどの部分で何がわかりますか?

 本間 目の付け所はたくさんあります。そうした中では、まず、違法な寄付がないかどうかを調べることから始めると良いでしょう。
 法人ではなく個人が行う寄付について、政治資金規正法は「政党(政党支部)」に対するものは総額で年間2000万円以内と定めています。寄付先が「政治団体」の場合、1団体について年間150万円以内などとなっています。これはイロハのイですから、公開される報告書に堂々と法律に違反する内容を書き込む政治団体の会計責任者はまずいないでしょう(会計責任者は政治家の秘書らが担うケースが多いです)。

 ところが、私の取材経験で言うと、1人だけ例外がいました。北海道新聞の記者時代に取材した鳩山由紀夫元首相の資金管理団体です。政治資金収支報告書を見ると、会計責任者は、限度額をはるかに超えた寄付金額を記入していました。堂々と。驚きでした。2000年代初めのことです。

 総務省に提出されたその資金管理団体の報告書には、鳩山氏の実母など親族2人から限度額以上の多額の献金を受けた事実が記載されていました。私は2年連続してその事実を報道しました。その直後は、特段、おおごとにはなりませんでした。しかし、2年連続して報道されたことが効いたのでしょうか。鳩山氏側はその後、勝手に第三者の名前を使って、その人たちから献金があったことにしたようなんです。実母らからの多額の寄付を、架空の人からの寄付として限度額内にそれぞれ分散したわけです。これ、アウトです。政治資金規正法違反です。

 ――なるほど……。で、その後はどうなったんでしょうか?

 本間 献金主を多人数に分散させた偽装工作は、鳩山氏が首相になる直前の2009年春に発覚してしまうんですね。当時は民主党代表でした。当然、大問題です。政治資金規正法第25条によると、虚偽記載の罰則は「禁錮5年以下、または罰金100万円以下」です。決して軽い罪ではありません。結局、この資金管理団体の会計責任者で鳩山氏の秘書だった男性は、政治資金規正法違反で刑事告発され、執行猶予付きの有罪判決を受けました。会計責任者その人が、政治資金規正法のずぶの“素人”だったのかもしれません。そうだとしたら、そんな人物を会計責任者に据えた鳩山氏の認識もいい加減だったと言えるでしょう。

 話がそれてしまいました。元に戻しましょう。

 「年間2000万円以内」「150万円以内」といった規制は、政治団体に対する寄付の限度額です。つまり、「量的制限」ですね。量の制限がある以上、当然、「質的制限」もあります。外国人や外国企業は寄付ができない、3年連続して赤字決算の企業は業績が回復するまで寄付ができない……。こうした規制が質的制限に該当します。

 質的制限はほかにもあります。国、都道府県、市町村から補助金や負担金などを受けている企業は原則、交付の決定から1年間は衆院選や参院選、各自治体の首長や議員選挙に関して候補者を支援する政治団体に寄附はできません。

 これについては誤解もあるようです。例えば、ある県から補助金を受けている企業はその県の首長や議員を支持する団体への寄付が禁止されているけれど、国会議員の政治団体への寄付はオーケーだと理解している人が多いようです。これは誤りですね。「本間誠也後援会」が東京都の首長や議員を選挙で支援していれば、東京都から補助金をもらっている企業は「本間誠也後援会」にも寄付できません。収支報告書をチェックする際は、この点もポイントになります。

 ――法の基礎的な知識が必要なんですね。そうした「ものさし」が頭の中に入っていないと、いくら報告書を読み込んでも単に「眺めた」だけで終わってしまいそうです。

 本間 いやいや。最初は誰もが初心者ですから、臆することは全くありません。少し勉強すれば「見る目」が養われますから、ぜひ解説書を読んでみてください。報告書作成に関する総務省のマニュアルなども役に立ちます。

 次に政治資金規正法の規定ではなく、公職選挙法との関連でも説明しておきましょう。公選法に基づくカネの流れは「選挙運動費用収支報告」に示されています。選挙が終わってから2週間以内に、落選した人も含めて候補者はその報告書を各選管に提出する定めになっています。

 公選法の規定では、国と請負契約を結んだ企業は衆院選と参院選に関して候補者の政治団体などへの寄付を禁じられています。都道府県や市町村と請負契約を結んだ企業は、それぞれの自治体の首長選挙や議会議員選挙に絡む寄付をできません。「選挙に関して」に該当するのは、公示や告示前後の寄付だと解釈されています。寄付の問題を洗う際は、政治資金だけでなく、選挙資金にも着したら良いと思いますね。

政治資金収支報告書の様式(東京都選挙管理委員会HPから)。報告書は何ページにも及ぶ。写真のページは収支の全体状況を示したもの。赤線部分が収入。収支報告書の収入のうち、「寄附の内訳」を示すページ。寄付した者の氏名や住所なども記載されている。

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本間誠也
 

ジャーナリスト、フリー記者。

新潟県生まれ。北海道新聞記者を経て、フリー記者に。

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