権力監視型の調査報道とは何か。どう進めたらいいのか、どんなハードルがあるのか。それに答える連載の5回目。主に新聞社・通信社の若手、中堅記者にを対象にして「何をすべきか」「何ができるか」を語っている。6年前余り前の講演を再構成・加筆したのものだが、権力チェックを志向する取材記者にとって、今でも十分に役立つはずだ。この回で終了予定だったが、もう1回増やし、次回6回目で最終回とする。(フロントラインプレス代表・高田昌幸)
Q:「調査報道では、メディアが内部告発者に利用されるのでは?」
会場からの質問 調査報道は端緒が全て、ということなんですけれども、その情報がマスコミを通して世に出ることによって、情報をリークしてくれた人、内部告発をした人の得になるようなことも考えられる。要は、マスコミを利用して、自らの立場をよくするために情報を出す。そういうことも十分に考えられると思うんです。そういったときに、その情報に公益性があるのか、正しいものか、利用されていないか、そのへんをどう判断したらいいのか。
高田 内部告発の動機は、経験上、基本的に私怨です。一番多いのは恨みつらみです。「あの上司、許せねえ」とか、「この局長、ぶっ飛ばしたい」とか、基本、最初はそういうところです。それはそれでいい。というか、真っ当な正義感だけに燃えて、内部告発によって自らの組織を良くしようと思って立ち上がる人というのは、実はそんなに世の中にはそうそういないだろう、と。逆に、正義オンリーで内部告発に来た人は、僕は少し警戒します。あまりにもリアリティーに乏しい。
そういう点からすると、報道が内部告発をした人の利益になるとか、あるいは内部告発をした側の組織の利益になるとか、そういうことは結果としてはあると思います。でも、それと報道することの公益性、社会性の判断というのは、次元がちょっと違うと思う。
でも、利用されるかもしれない、という自覚があれば、僕は大丈夫だと思います。知らずに利用されるのはだめですけれども。あとは、利用される程度と、記事の影響力や公共性、それらとのバランスみたいな話ですから。
A:「報道機関は普段から権力にさんざん利用されている」
高田 「利用されている」という点で言えば、ふだん僕らは記者会見やレクで、さんざん利用されているわけですよ。利用されようとしているわけですよ。結果として、相手の行政的な広報を一生懸命している。それを気にせずして、「内部告発で利用されたらどうしよう」なんて考える必要はないと思います。
この関連で、内部告発者をどう守るか、についても触れておきます。一般的に言えば、どんなことがあっても守る。それが全てです。情報源をばらしてしまったら、この世界では終わりです。記者生命も終わりです。
では、どうやって情報源を守るか? 基本的は誰にも言わないことです。
昔、ウォーターゲート事件のとき、ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインが『大統領の陰謀』という本を後に書きますけれども、「ディープ・スロート」と言われた情報源はFBIの副長官だった、という暴露話をFBIの副長官の家族か誰かが、5~6年前だったですか、本に出しました。そのとき、ボブ・ウッドワードのほうは「そのとおりだ」と言ってしまったんですね。プレスから「そのとおりなんですか」と尋ねられて、「そうだ」と言っちゃった。おまけに『ディープ・スロート 大統領を葬った男』という本まで書いて、絶対秘密だったはずの情報源との関係を微に入り細に入り書いてしまった。あれはまずい。どんな状況になっても、たとえネタ元が故人になっても情報源を口にしてはいけないんですよ。あの事件のネタ元は俺です、という人が何年かたって名乗り出てきたって、「ノーコメント」と言い続けなければいけない。