“地方紙✕通信社” 辺野古新基地をめぐる政府の隠し事を新たな枠組みですっぱ抜く

  1. 調査報道アーカイブズ

◆「課題が複雑化し、1社だけでは調査報道が難しくなっている」

 この調査報道スクープには、もう1つ重要なポイントがある。それは、沖縄タイムスと共同通信という2つのメディアによる共同取材だったという点にある。同じ趣旨の記事は、共同通信の配信によって全国各地の地方紙でも大きく掲載された。

 多くの地方紙は共同通信社に加盟し、共同通信社は多くの地方紙に記事を配信するという関係にある。そんな中、権力が隠している情報に真っ向から切り込む「権力監視型の調査報道」において、双方が取材レベルから合同するケースはかつてなかった。「地方紙・通信社」という枠組みに限らず、このタイプでの調査報道で企業の枠を超えて手を結んだ例も、ほとんどないはずだ。

 その意味でも、この調査報道スクープは画期的だった。

辺野古新基地の計画図(防衛省のHPから)

 沖縄タイムスがHPなどで明らかにしたところによると、合同取材は沖縄タイムスの阿部岳編集委員が端緒情報をつかみ、共同通信の石井暁編集委員に相談したことから始まった。阿部編集委員は沖縄のメディアで働き、地元の動向に詳しい。石井編集委員は防衛省・自衛隊に関して30年近い取材歴を持ち、その中枢に深い情報源がある。お互いの長所を生かした組み合わせである。

 沖縄タイムスは、第一報を載せた日の紙面で取材の経過を明かし、その中で与那嶺一枝編集局長はこう語っている。

 「規模は異なるものの、今回は沖縄に根を張るタイムスと政府中枢に取材網を広げる共同通信のそれぞれの強みを生かして連携することができた」
 「課題が複雑化し、1社だけでは調査報道が難しくなっている。今後も柔軟に積極的に、他メディアと協力していきたい」

◆沖縄タイムスと共同通信は何を克服したのか

 この合同取材のポイントは、通常は一次情報を共有しない報道機関同士が手を組んだばかりか、端緒も含めて情報を共有し、一緒に取材を進めた点にあった。

 取材源の秘匿はジャーナリストに課せられた最低限のルールである。ことに権力中枢に手を突っ込んでいくような「権力監視型の調査報道」においては、通常以上に取材情報の取り扱いには注意しなければならない。いくら同業者とはいえ、取材パートナーをどこまで信用していいのか。組織文化も取材手法も異なる双方が、本当に同じレベルでの調査報道取材を継続できるのか。課題はいっぱいあったはずだ。それを沖縄タイムスと共同通信は見事に乗り越えてみせた。

 調査報道を進める組織や個人にとって、何が一番しんどいか。おそらくは資金と人のやりくりである。調査報道はあらかじめ答えが見えている「発表報道」と違い、取材の道筋も結末も見えていない。長い時間を費やし、相応の人材を投入しても“成果ゼロ”ということも珍しくない。そういったことを考えると、他のメディア・他の会社と組んで取材を進めることには、結構なプラス要素があるはずだ。

 同じ2021年には、愛知県知事のリコール署名に関する不正をめぐって、西日本新聞と中日新聞も合同取材で大きな成果を出した。新聞・テレビといったレガシーメディアが凋落を続ける中、調査報道をどう維持するか。その回答の1つは「企業の枠を超えた合同取材」かもしれない。

■参考URL
「愛知県知事リコール署名の大量偽造 暴いたのは地域と会社の枠を超えた前例なき“地方紙連携”」(フロントラインプレス)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

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