状況は最悪 支援団体「リーマンショック時以上」
東池袋中央公園で炊き出しなどの生活困窮支援を行っているのは、NPO法人「TENOHASHI」だ。事務局長の清野賢司さんは「今年度(2021年度)の炊き出し利用者は、リーマンショックの時を超えて最高の人数になると思います。毎回毎回、初めて来られる人が多くて」と危機感を募らせる。
コロナの緊急事態宣言が解除された2021年9月以降も、行列に並ぶ人は減らなかった。11月27日には、1日としては過去最高の472人を記録した。1日当たりの平均利用者は、2019度が166人、2020年度が約230人。清野さんは「2021年度は380人から400人になる見通しです」と明かし、こう続けた。
この会場で生活相談に来る人の平均年齢は、2021年度もその前の年度も48、49歳です。炊き出しに並ぶ人の平均年齢も同じくらい。ただ、炊き出しに並ぶ若者の数は増えています。一方的に仕事を首になった、一方的にアルバイトのシフトを減らされた、といった20代、30代の相談もよく受けます。
何の保証もない非正規の人がこれだけ増え、フリーランスの人も増えてきて……。そういった状況でコロナのようなことが起こると、いとも簡単に生活の基盤が失われてしまいます。そういうことが露呈してしまいました。先が見えない中、次の仕事に就けるまで少しでも節約しようとしている人で、われわれの炊き出しに並んでいる人はかなりいると思います。
清野さんは、次のように行政に強く要望する。
相談受けて思うことは、住まいが安定していない人が多いことです。誰もが安定した住居を得られるよう、経済政策などではなく、社会保障として住宅政策に取り組んでほしい。困窮した人が住まいを失うことがあっても、(政策によって)普通のアパートに住むことができて次のステップに進めるように。下支えとなるように。われわれは『ハウジング・ファースト』と呼んでいます。これを日本の社会政策にきちんと位置付けるべきではないでしょうか。
横浜・寿町 1月3日、炊き出しに400m以上の列
横浜・寿町はかつて、東京・山谷、大阪・釜ヶ崎と並ぶ日雇い労働者のまちとされた。
1月3日。寿町の寿公園では、12月30日から始まった「年越し炊き出し」の最終日を迎えていた。カレー弁当の配布が始まる午後3時には、寿公園のある約100メートル四方のエリアを1周以上、400メールを超える長蛇の列ができていた。
列にはドヤ(簡易宿泊所)の自室から出てきた高齢者がいた。ほかにも耳にピアスをした若い男性、小学生の子どもを連れた親子がいる。一見、場違いと思えるような、普通の身なりの中高年の男性も少なくなかった。
50代の女性が取材に応じてくれた。
ベージュ色のコートは厚手で、フード付き。ショルダーバッグを2つ、肩にかけている。「炊き出し(に並ぶのは)は初めて」と言う。洋菓子の工場で働いていたが、コロナ禍で10月末に雇い止めになった。蓄えは「ほんの少し」で、「来月の家賃が支払えないかもしれない」とうなだれている。
「思い切って(行列に)並びました。少しでも節約できるから」。次の仕事の当ては? その問いには黙って首を横に振るだけだった。
支援者「雇用の底が抜けた。初めて見る顔が増えてきた」
炊き出し会場内で生活相談、健康相談に応じる森英夫さんによると、炊き出しに並ぶ人の中に、初めて見る顔が増えている。
地区の路上生活者の夜間パトロールをしていても、以前からの人たちに加え、40代くらいの新しい人もいます。コロナによって底が抜けたような雇用の状況が、多くの人を困窮に追い込み、多くの人の住まいを失わせています。苦しんでいる人には『生活保護などを受けることは権利であり、受給することをためらう必要はないんです』と呼びかけたい。私たちはその手助けをしたいと思っています。
年末年始の炊き出しを挟んだ12月30日、東京証券取引所の日経平均株価は2万8791円を付け、年末の終値としては32年ぶりの高水準となった。年が明けた1月4日、年明け最初の終値は2万9301円。年末の大納会の日よりも500円以上も高くなった。
しかし、炊き出しに並んだ人や並ぼうかどうか迷っている人にとって、そんな話は関係がなかった。2008年のリーマンショック以降の13年余り、「過去最大の経済対策」「いずれ良くなる」「アベノミクスで景気回復!」といったフレーズを虚しく聞かされ続けてきたのだ。
日本の足元の脆弱さ、崩壊ぶりは何も変わっていない。
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