◆「知っていて書かなかったのなら、他メディアも共犯だ」
――千葉県議会の自民以外の会派の議員は、「なぜこの問題が長い間、表面化しなかったのか不思議だ」と言っていました。「全国紙の記者は、仲間である千葉日報と最大会派の自民党に遠慮したのでは」とも。
大石 メディアにとって同業他社がジャーナリズムに反することをしているということになったら、厳しく書くのが普通だと思うんですけども、悪い意味の横並び体質、ギルド体質があって、結局、同業者のことについてはお互いかばいあうというか、そういうことは多々あると思うんですね。たとえば2000年に起きた森首相の「指南書問題」、これは「日本は天皇を中心とする神の国である」という不用意な発言によって政治的に窮地に立った首相に、官邸記者クラブの「誰か」が「記者会見の乗り切り方」を指南したという驚くべき事件でしたが、多くのメディアはこれを大きくは報道しなかったし、また「誰がやったことなのか」の追及もしませんでした。
大石 今回のことも、もしかすると記者クラブの記者の多くは「知っていた」ことなのかもしれません。しかし、知っていたのに書かなかったのなら、他社の記者も共犯ですね。もし、自分たちも日常このように政治家とべったりの関係を構築しているなら、書いたら自分たちに跳ね返ってくるかもしれないし、今後の取材に支障をきたすようなことはとりあえずやめようということなのかもれません。「桜を見る会」の場合と同じ構図ですね。そういうお互いに大目に見ましょう、緩く仲良くいきましょう、というのが千葉に限らず全国に広がっているなら、これはもうメディアのジャーナリズムも末期的状態と言えると思います。
今回の事件をフロントラインプレスの報道で知った一般の人たちがどういう反応を示すのかはわかりませんが、もし「新聞なんてそんなもんだろう。別に驚きはない」というのが多くの人の反応だとしたら、もう人々は新聞に「ジャーナリズム」などは期待していないことになると思います。新聞社にはまだまだ、良心的で優秀な記者も残っているとは思うのですが、そうした貴重な人材を載せたまま、日本の新聞はこのまま海中へと沈んでいくのか。今回の事件に対するメディアの対応を注視したいと思います。
■大石泰彦(おおいし・やすひこ)
青山学院大学法学部教授。
1961年生まれ。関西大学助教授、東洋大学教授などを経て現職。
専門分野はメディア倫理・メディア法
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