◆当局とメディアの定期的な“懇談” 現代も続く
戦時中、マスコミ統制を主導したのは内閣情報部、内閣情報局であり、朝日新聞の筆政(主筆)だった緒方竹虎氏が総裁の任に就いていたことで知られる。本書に出てくる内閣情報局の資料によると、新聞の論調を「内容指導」するために、情報局が主催する編集局長会議、政治部長会議、経済部長会議、社会部長会議が毎週開かれていた。出席するのは主要8社だ。当時の文書にはこうある。
…情報局総裁がこれを招集して各般の情勢を説明するとともに当該問題に関して懇談を重ね、自主的に新聞社側の態度を決定せしめ、これを道義的法的取締基準とする。
これを政府・軍部は「懇談」による「内面指導」と呼んだ。新聞社の自主的判断を促す形を取りながら、新聞社自身に“基準”を作らせ、それを取締のスタンダードにしていくやり方である。その積み重ねによって新聞は当局と肩を並べ、腕を組み、国を破たんに導いた。当時の新聞もスクープを競っていたが、それはいかに早く、検閲のOKをもらうかの競争であり、“基準”に逸脱した報道を当局にチクるといったレベルでの競争だった。
実は、内閣情報局の内部文書に登場する「懇談」は、現在も霞が関で行われている。各省庁の幹部が記者クラブ加盟社の記者に対して、時々の情勢を説明し、“理解”を得るための場である。政権幹部との“懇談”もしばしば開催。現場の担当記者が日々参集している。編集局長や部長レベルを集めた会合も定期的に開かれている。その閉じられた空間で、何が話し合われているか、表には出てこない。新聞とラジオしかなかった戦前も、インターネットが発達した現代も、その構造に大きな変化はないのかもしれない。
■関連
『新聞は戦争を美化せよ! 戦時国家情報機構史』(山中恒著、小学館)
『戦争と新聞 メディアはなぜ戦争を煽るのか』(鈴木健二著、ちくま文庫)
『そして、メディアは日本を戦争に導いた』(半藤一利・保阪正康著、文春文庫)
2