【資料】岸田文雄首相の「祝う会」不起訴に関する審査申立書/広島検察審査会宛

  1. オリジナル記事

第7.罰条及び罪名

1(1)① 政治資金規正法第第22条の8第2項、第26条の3第4号、刑法第60条。

1(1)② 政治資金規正法第12条第1項、第25条第1項第2号・第3号、刑法第60条。

1(2) 政治資金規正法第25条1項2号・第3号、第27条2項。

2(1) 政治資金規正法第12条第1項、第25条第1項第3号、刑法第60条。

2(2) 政治資金規正法第25条1項3号、第27条2項。

3(1) 政治資金規正法第第22条の8第2項、第26条の3第4号、刑法第60条。

3(2) 政治資金規正法第18条の2、第25条第1項第1号、刑法第60条。

3(3) 政治資金規正法第25条1項1号、第27条2項。

 第8 検察官の処分とその理由

 いずれの被疑者も不起訴処分

 不起訴理由については、

被疑者岸田文雄は「嫌疑なし」

被疑者P、被疑者Q、X(氏名不詳)は「嫌疑不十分」。

 

第9 不起訴処分は不当です

1.「岸田文雄後援会」等、被疑者ら及び「祝う会」について

(1)「岸田文雄後援会」等について

ア 「岸田文雄後援会」は、被疑者岸田文雄の国会議員関係政治団体であり、

その主たる事務所の所在地は、広島市中区八丁堀6-3和光八丁堀ビル9階です。

イ 「岸田文雄後援会」の主たる事務所の所在地には、被疑者岸田文雄の国会議員関係政治団体である「自由民主党広島県第一選挙区支部」(以下「県第一選挙区支部」という)の主たる事務所もあります。

(2)被疑者らについて

ア 被疑者岸田文雄は、衆議院議員であり、現在、内閣総理大臣です。同人は、「県第一選挙区支部」の代表者です。

「岸田文雄後援会」の主たる事務所は「県第一選挙区支部」のそれと同じ所在地なので、被疑者岸田文雄は、「岸田文雄後援会」の事実上の代表者でもあります。

イ 被疑者Pは、「岸田文雄後援会」の代表者であり、

報道及び「県第一選挙区支部」の2022年分収支報告書によると「合同任意団体」の代表者です。

ウ 被疑者Qは、「岸田文雄後援会」の会計責任者であり、かつ、「県第一選挙区支部」の会計責任者兼事務担当者でもあります。

エ Rは、被疑者岸田文雄の秘書であり「岸田文雄後援会」の事務担当者でしたが、2023年12月6日に死去したそうです(「中国新聞」2023年12月9日)。

オ 被疑者X(氏名不詳)は、「岸田文雄後援会」の事務職員(当時)です。

カ したがって、被疑者岸田文雄は、「県第一選挙区支部」の代表者であり、「岸田文雄後援会」の事実上の代表者ですから、

被疑者Q、被疑者P、R、被疑者X(氏名不詳)を指揮・監督する立場にありました。

収支報告書に記載されている基本情報(表=略)

 

(3)「祝う会」は政治資金規正法上「政治資金パーティー」「特定パーティー」だった!

ア 政治資金規正法第8条の2によると、「政治資金パーティー」は「政治団体によつて開催されるようにしなければならない。」と定めるとともに、「政治資金パーティー」について以下のように定義しています。

「対価を徴収して行われる催物で、当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動(選挙運動を含む。これらの者が政治団体である場合には、その活動)に関し支出することとされているもの」をいう、と。

この定義によると、「政治資金パーティー」とは、まず、「対価を徴収して行われる催物」であることが前提になっています。

そのうえで、「当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額」が生じる催物を「政治資金パーティー」と定義しているのです。

 「祝う会」の当初の案内状(「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」案内状2021年12月吉日)を見ても、「新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から飲食のご提供は控えさせていただきます」などと明記されていたので、計画段階で高額な支出があるとは想定されていなかったことがわかります。

 それゆえ、その会費を大勢から徴収すれば経費の支出を控除しても収入は大幅な黒字になることは当然想定されていたはずです

したがって、計画段階から「祝う会」は、「当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額」が生じる催物だったのですから、政治資金規正法上の「政治資金パーティー」だったのです。

 実際、どうだったのか、可能な限り具体的に確認しましょう。

「祝う会」の案内状によると、「祝う会」の会費は1万円でした(「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」案内状2021年12月吉日)。

報道によると、参加者は約110人でしたし、「欠席したが会費は支払ったという政界関係者もいた」と報道されました(「岸田文雄首相の『違法パ―ティー』収入は322万円!」週刊ポスト2024年2月2日号20頁)。

したがって、「祝う会」の収入は1100万円を超えていたと推定されます。

ただし、「欠席したが会費は支払った」人数は未確認なので、ここでは、少なくとも「祝う会」の収入は1100万円だったと推定しましょう。

 では、「祝う会」の支出は幾らだったのでしょうか。この主要支出は以下の報道でわかります。

「内容は面白みのない会でした。椅子席で1時間以上来賓の祝辞が続き、最後に岸田さんが挨拶して終わった。飲食はなく、帰り際にお土産として岸田さんの色紙と著書の『岸田ビジョン』(講談社)を1冊もらいました」(「岸田文雄首相の『違法パ―ティー』収入は322万円!」週刊ポスト2024年2月2日号20頁)

岸田文雄著『岸田ビジョン』(講談社・2020年)は、調べたところ、定価は1760円。1100人分だと、193万6000円になる。

また、「リーガロイヤルホテル広島」4階「ロイヤルホール」「クリスタルホール」の会場使用料を調べたところ、それぞれ2時間以内の基本料金で、78万4300円と34万1550円、計112万5850でした。

以上の書籍代、会場代、印刷代を合計すると、306万1850円になります。

その他、案内状と延期通知等の印刷代については、資金管理団体「新政治経済研究会」の2022年分収支報告書における記載金額を参考にして、30万数円だったと推定しました。

そうすると、支出総計は約340万円だったと試算できました。

 前記収入約1100万円から経費支出約340万円を控除すると、約760万円になります。これによると、この約760万円は、「当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額」に相当するので、「祝う会」は政治資金規正法上の「政治資金パーティー」であり、かつ、後述する政治資金規正法上の「特定パーティー」でした

カ 「祝う会」は被疑者岸田文雄の出席のもとに開催されていますし、開催日の延期もなされていましたので、被疑者岸田文雄抜きには開催できない政治資金パーティーでした。

 

2.「祝う会」の主催者は「岸田文雄後援会」だった!

ア 「祝う会」は、当初、2021年12月に案内状が作成され配布されました。それによると、「祝う会」の開催日時は2022年1月22日(土)午後1時から開催される予定でした(「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」案内状2021年12月吉日)。

しかし、新型コロナウイルス感染が拡大し、広島県では「まん延防止等重点措置」が適用されたため、「祝う会」は延期され、すでに支払われた会費は返金されなかったそうです(「『衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会』開催延期について」2022年1月13日)。

2022年5月には、同年6月12日(日)午後1時から、当初の会場である「リーガロイヤルホテル広島」4階「ロイヤルホール」「クリスタルホール」で開催するとの案内状が作成され配布されました(「岸田文雄内閣総理大臣就任を祝う会開催のご案内」2022年5月吉日)。

そして、「祝う会」は2022年6月12日に開催され、各報道によると、被疑者岸田文雄も参加し、挨拶していました。

イ 以上の案内等について、「祝う会」の主催者は、必ずしも「「岸田文雄後援会」とは明示されていません。

むしろ、2021年12月の案内状では「主催者」「主催」の表記はなく、「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」とだけ明記されているだけでした(「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」案内状2021年12月吉日)。

「祝う会」延期を知らせる書面(2022年1月13日)でも「主催者」「主催」の表記はなく「『衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会』開催延期について」と記載されているだけでした。

2022年5月の「岸田文雄内閣総理大臣就任を祝う会開催のご案内」で初めて「主催者」の表記があり、前掲「合同任意団体」と明記されていました。

報道によると、「発起人」は「広島県知事、広島商工会議所会頭など地元政財界の有力者11人」で、「この団体は法務局に法人登記されておらず、総務省や広島県選挙管理委員会に政治団体としての届け出もなされていない。首相就任パーティー開催のために作られた任意団体ということになる」というのです(「岸田文雄首相の『違法パ―ティー』収入は322万円!」週刊ポスト2024年2月2日号20頁、22頁)。

この「合同任意団体」は、「祝う会」終了後の2022年9月12日に321万円余りを「県第一選挙区支部」に対し寄附していたことが、「県第一選挙区支部」の2022年分収支報告書の寄付収入欄に記載されており、それによると、その代表者は、被疑者Pと明記されていました。

 

県第一選挙区支部」の2022年分収支報告書の法人等寄付収入欄

寄附者の名称 金額 年月日 寄附者の主たる事務所の所在地 代表者の氏名
衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会 3,215,167円 2022/9/12 広島市西区商工センター1-14-1 P

 

ウ しかし、連絡先」は、「合同任意団体」の事務所(広島市西区商工センター1-14-1)ではありませんでした。2022年1月13日付「『衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会』開催延期について」では、「岸田文雄事務所(内)TEL:082-228-2411」と明記され、また、2022年5月の「岸田文雄内閣総理大臣就任を祝う会開催のご案内」でも「衆議院議員岸田文雄事務所 R TEL082-228-2411」と明記されていました

R(故人)は、当時、「岸田文雄後援会」の事務担当者であり、電話番号「082-228-2411」は「岸田文雄後援会」の電話番号です

 また、発起人の一人に被疑者Pの氏名が明記されており(「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」案内状2021年12月吉日)、前述したように、同人は、「岸田文雄後援会」の代表者です

 報道によると、「合同任意団体」の代表者とされている被疑者Pは、「合同任意団体」が前記321万円余りを「県第一選挙区支部」に対し寄附していたことを知らない、と証言しているのです。

知らーん、そんなもん。ワシが寄附したことになっとん? 全然あずかり知らんよ。パーティーに出席したのは間違いないが、いくら集まったか、会場費がいくらかかったかとか、会計についてもワシは全く知らない。」「その会には後援会長の名前を貸したかもしれんけど、(「祝う会」の)代表になった覚えはない。県と市の官民あげてお祝いした会だったと思うけえ、政治資金パーティーだったかどうかもワシにはわからん。会費を集めた会計を岸田事務所がさせてもろうたのかもしれんね。これはホンマにワシの守備範囲外じゃ、ごめんじゃが。……」(「岸田文雄首相の『違法パ―ティー』収入は322万円!」週刊ポスト2024年2月2日号20頁、22頁)

また、発起人の一人である広島商工会議所会頭に取材した結果として同会議所事務局長が以下のように説明したと報道されました。

「『祝う会』は日本商工連盟(全国の商工会議所の政治団体)の広島地区と、岸田事務所、総理の後援会(岸田文雄後援会)の3者が主体となって開催したものと認識しています。当日は会頭が日本商工連盟広島地区代表世話人の立場で挨拶しましたが、運営には関わっていません。お金(の管理)については岸田事務所ではないかと思います」(同上22頁)

さらに、案内状にある「祝う会」の所在地を訪ねると、「広島市中小企業会館」と、「協同組合 広島総合卸センター」の看板がある2階建ての建物で、「祝う会」の看板はなく、広島総合卸センターの担当者は、以下のように話したというのです。

「一応、(案内状には)ここが『祝う会』の窓口と記載してあるんですが、うちは職員が手の空いた時に案内状を送ったり、(出欠の)集計したりをお手伝いしていただけ。細かなことは岸田事務所のほうでやっていただいとった。お金(会費)のやり取りはうちのほうじゃなかったんで、岸田事務所に聞いていただければ」(同上22頁)

「祝う会」当日も、「岸田事務所の秘書やスタッフが総出で受付などを行なっていた」と複数の出席者が語っており、「祝う会」パーティーは企画・準備段階から会費集めまで岸田事務所が仕切っていた、というのです(同上22―23頁)。

以上において、「岸田事務所」とは「県第一選挙区支部」であるように思えるかもしれないが、前述したように、「県第一選挙区支部」の主たる事務所の所在地は「岸田文雄後援会」のそれと同じであり、「岸田文雄事務所(内)TEL:082-228-2411」「衆議院議員岸田文雄事務所 R TEL082-228-2411」という表記を踏まえる必要があるでしょう。

 「祝う会」の会費振込先の口座は、広島銀行八丁堀支店に開設された「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会 代表 P(名字のみ)」という口座であり(同上22頁)、その開設などは秘書のRが担い(中国新聞2024年2月14日)、「祝う会」の主催した事務局は「岸田事務所」だったというのです(「朝日新聞」2024年2月14日)

 したがって、以上の書面及び証言によると、「祝う会」の真の主催者は「岸田文雄後援会」であったとしか考えられないのです。

その際、

「岸田文雄後援会」の名目的な代表の被疑者Pが印章を準備・提供し、

被疑者岸田文雄の秘書で「岸田文雄後援会」の事務担当者であったRが口座の開設をして

「岸田文雄後援会」が「祝う会」の政治資金パーティーの会費収入を含む政治資金の収支を管理し、

同職員らが政治資金パーティーの受付けを担当する

など役割分担をしていたのです。

もちろん、その事実上の代表は、「県第一選挙区支部」の代表者である被疑者岸田文雄でした。同人は、「県第一選挙区支部」の会計責任者兼事務担当者である被疑者Q、「岸田文雄後援会」の名目上の代表である被疑者P、同事務担当者であるR、同職員である被疑者X(氏名不詳)を指揮・監督する立場にあるからです。

ク 「合同任意団体」は「岸田文雄後援会」が後述するように裏金をつくるためのダミー団体であったしか考えられません。

 

3.「岸田文雄後援会」の政治資金規正法の「政治資金パーティー」告知義務違反

 政治資金規正法は、第22条の8第2項において「政治資金パーティーを開催する者は、当該政治資金パーティーの対価の支払を受けようとするときは、あらかじめ、当該対価の支払をする者に対し、当該対価の支払が政治資金パーティーの対価の支払である旨を書面により告知しなければならない。」として、政治資金パーティー主催者に書面での告知を義務づけています。

イ 前述したように、「祝う会」は、計画段階から「当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額」が生じる催物でしたし、実際にも当該「残額」は約760万円だったので、明らかに政治資金パーティーでした

しかし、前述した「祝う会」の案内状等のいずれにも「祝う会」が政治資金規正法上の政治資金パーティーであり、その対価の支払いは政治資金パーティーの対価になる旨の告知が書面のどこにも記載されていませんでした

したがって、明らかに政治資金規正法第22条の8第2項の前記告知義務違反であり、同法第26条の3第4号違反です

 この違法行為は、事務方だけの独断では行えないでしょう。「岸田文雄後援会」の事実上の代表である被疑者岸田文雄が、同名目上の代表者である被疑者P、同会計責任者である被疑者Q、当事務担当者であるR(故人)及び同事務職員であるX(氏名不詳)と共謀して強行されたものであるとしか考えられません。

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鈴木祐太
 

ジャーナリスト。

地方の理系大学に在学中から、被差別部落・ベトナム難民などの在日外国人の子どもたちへの支援に関わる。

小学校臨時教員、派遣社員などを経て、ネットを中心としたメディアに関わり、「政治とカネ」「子どもの貧困」などの社会問題を中心に記事を発表してい...

 
 
   
 

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