◆「私の経験、披露します」
――政治資金の収支報告書を端緒にして、どんな調査報道記事を書いてきましたか。具体例を教えてください。
本間 新聞記者時代も含めて、いくつもありますが、最近の事例を2つ。いずれもフロントラインプレスとしてネット上で公開した記事です。
1つは、国会議員の選挙「余剰金」の調査報道です。すべての国会議員を対象にして、選挙運動費用収支報告書をひっくり返し、選挙運動でお金をいくら余したかを調べました。「選挙にはお金がかかる」「資金が足りない」といった話はよく聞こえてきますが、実は多くの議員が選挙でお金を余らせているんですね。その余剰金(残金)の実態を明らかにし、さらに残金をどうしたのかを調べました。ポスター印刷代などが公費で賄われるなど、候補者には税金が流れます。余ったお金をポッケに入れたのか、どこかに寄付したのか、あるいは行方不明なのか。問題の所在は小さくないと思いました。
フロントラインプレスの仲間の協力を得て、記事は2019年に東洋経済オンラインで公開しました。
国会議員の選挙資金を調べるフロントラインプレスのメンバー(2019年)
一般に国会議員の選挙運動費用は、その候補者が代表を務める政党支部などからの寄付を中心に賄われています。政党支部の資金には税金である政党交付金が含まれているわけですから、選挙後に余った現金は寄付元である自分の政党支部などに返却するのが正しい処理方法と考えられています。ところが、です。調査を進めると、これが……。
――ひどい実態だった?
本間 衆参の国会議員約700人を調べた結果、268人が余剰金を返却しておらず、余った現金が行方不明になっている実態が明らかになりました。使途不明の最高額は1回の選挙で約2725万円に上りました。たった1回の選挙で3000万円近いお金を余らせ、しかもその行方が分からないんですよ!
政治家の多くは「選挙資金の中には政党交付金が含まれており、余剰金は政党支部に戻すべきもの」と本音の部分では認識しています。
――具体的には、どんな調べ方をしましたか?
本間 選挙に際し、政党支部などから政治家個人(立候補者)にいくら寄付が行われたかを選挙運動費用収支報告書で調べました。その額は、政党支部などの支出(寄付)額と一致していなければなりません。そのために、政治資金収支報告書も使いました。
続いて選挙運動費用の残金が政党支部などの収支報告書に返却されているかどうか、そのチェックです。すべての国会議員を対象に、選挙運動費用収支報告書と政治資金収支報告書を往復しながらチェックしました。都道府県の公報や官報なども使いましたし、取材班で目を通した書類は1万枚を超えたかもしれません。
――最近の事例のうち、もう1つはどんな報道でしたか。
本間 2021年春にスローニュースで公開した国会議員による寄付金還付の実態調査の記事です。国会議員などは自らが代表の政党支部に自ら寄付した場合、なんと寄付額の約3割が確定申告によって戻ってくるのです。耳を疑うような話ですが、租税特別措置法の「抜け道」として今もまかり通っているのです。抜け道の存在だけでも驚きですが、実際にそれを使って還付を受ける議員がいるのですから、「ええっ!」です。
スローニュースの「大調査 確定申告で政治献金を取り戻す国会議員たち」のカバー
本間 各議員の政党支部の政治資金収支報告書を活用した調査は、次のような手順でした。まず、政治資金収支報告書の寄付者の欄にその政治家自身の名前があるかどうかを調べます。名前があれば次に進みます。
政治家が自身の寄付の3割を還付してもらうには、総務省や都道府県選管が発行する「寄附金(税額)控除のための書類」というタイトルの書類が必要です。その作成を政治家側から依頼しなければなりません。公文書です。そこで、各選管に開示請求し、その政治家が「寄附金〜」の書類を受け取っていたかどうかを確認しました。衆参の全国会議員を対象に調べた結果、39人が「抜け道」を利用して還付を受けていました。