“ネタ元”ゼロで始まる深掘り取材 そのときに武器となるのは? 「権力監視型の調査報道とは」【3】

  1. How To 調査報道

◆どうやって裏取りするか? 方法を考え抜く

 届け出を受けて許可する側の札幌市はどうだったでしょうか。次に札幌市の担当部局に行き、同じことを尋ねました。すると、銀行と同じことを言います。個人の取引の話だから言えない、と。当然すぎるほど当然の答えです。困りました。ここを突破できないと、仮説を証明できないのです。

 考えあぐねた挙げ句、札幌市のある大幹部を訪ねました。会ったこともなかった。このときのことはよく覚えています。朝一番でその方の執務室に行き、部屋の前で待ち構えていた。「はじめまして、北海道新聞の高田と言います。どうしても話を聞いてほしいことがあります。10分だけください」と。向こうは驚いて、そして招き入れてくれました。「いったい、なんだ?」というわけです。そこで一生懸命説明しました。自分はただ事実が知りたいのだ、と。届け出が出たか出ていないか、それだけを知りたいんだ、と。あなたは曲がったことが嫌いだと聞いているから来たんだ、と。そして、自宅の電話番号もペン書きした名刺を置いてきました。結局、10分足らずです。

 このときほど、新聞社の名刺をありがたく思ったことはありません。フリーだったから、こうはいかなかったでしょう。名のある新聞社の記者として訪ねたから、会ってくれたわけです。このアドバンテージは調査報道にとって、極めて大きい。もちろん調査報道に限らないですが。

 翌朝、朝一番で自宅に電話が来ました。「届け出、出ていないよ。間違いない。保証する」と。手短かな電話でした。彼の立場で「保証する」と言ってくれたら、100パーセントです。それがこの記事です。国土法違反。銀行も国土法の許可が無いのに、融資を実行していた。後に銀行に調べさせたら、国土法の届け出書類が未提出なのに融資を実行した案件は、過去数年間で1件だけありましたと回答してきました。それがまさに本件だったわけです。

 おさらいです。高木議員の国土法違反事件、この報道の端緒は何か。

 政治家の資産報告書と自宅の土地登記簿と、それに関連する会社の商業登記簿と、それを突き合わせてずうっと見た。ただそれだけです。それが端緒です。ネタ元に相当する人はいません。内部告発もありません。

 それともう一つ、調査報道に限ったわけではないですが、取材には知恵と執念が必要だろうと思います。取材は体力勝負じゃない。知恵の勝負です。何時間も誰かの家の前で立って待ち続けることが取材ではないし、その長さを執念とは言いません。頭を使い、知恵を絞り、しつこく考え続ける。それが重要なのだろうと思います。

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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