“ネタ元”ゼロで始まる深掘り取材 そのときに武器となるのは? 「権力監視型の調査報道とは」【3】

  1. How To 調査報道

◆登記簿を見て、たった1つの疑問を突き詰めていく

 さらに資料をめくってください。「高木参議院議員が国土法違反」という1993年の記事です。古いものばかりで申し訳ない。それだけ皆さんとは世代が違うということです。

 皆さん、国会議員の資産公開をみたことあると思います。年に1回、新聞の特集面なんかを使って、どどんと出ますよね。残念ながらというか、遅れているというか、インターネットでは公開されていません。情報開示請求する必要があります。もちろん、資産報告書だけを単に眺めているだけでは、何もわかりません。

 私が北海道新聞時代にやっていたのは、国会議員とか知事とか首長さんの自宅の不動産登記簿を全部挙げることです。それを毎年更新します。そこがベースです。そうしていると、いろいろ分かる。資産報告とも見比べます。

 高木正明議員(故人)は、あるときに自分の自宅を会社に売っているのが判明しました。どこの会社に売ったのか? 法務局へ行って会社登記の謄本を取って、売却先の会社を調べると、代表者が高木議員の親族だった。あれれ、です。取締役に議員本人の奥さんもいる。げげげ、です。いったい、これはどういうこっちゃ、と。自分の個人名義の自宅を、自分の親族が代表をやっている会社に売っているんです。しかも、会社の所在地は当の高木議員の自宅です。現地へ行っても、自宅です。会社の表札もない。帝国データバンクや東京商工リサーチで調べてもらっても、事業の活動実績はなにもない。いわゆるペーパーカンパニーです。

 登記簿類を見ると、ペーパーカンパニーは高木さんの自宅を買うときに、銀行から7000万円ほどのお金を借りていました。抵当権が付いている。お金を借りて、その物件を買ったんですよ。変でしょう、どう考えたって。

 例えば、私がペーパーカンパニーをつくり、自分の住宅をペーパーカンパニーに売るわけです。ペーパーカンパニーは私から買う。そのために銀行から7000万円を借りたんです。その7000万円はどこに行くか。私のペーパーカンパニーに、つまり、私自身のところに来るんです。これはいったい何だろうと思うじゃないですか。

 この売買は選挙の直前でした。参院選の直前にお金を借りていました。当時は、都市部の地価高騰を抑えるために、一定面積以上の不動産売買には国土法の事前届け出が必要でした。札幌市長の許可が必要でした。その許可がない限り、銀行は融資しません、という形になっています。
ここまでが公開文書で得た疑問です。「なんじゃこりゃ」です。

◆「仮説に沿って丹念に取材する」ということ

 「なんじゃこりゃ」に対しては、私なりの仮説がありました。選挙の直前、高木議員には相当額の資金が必要になった。大蔵政務次官です。銀行もむげにはできない。さりとて、そんな大金をくれてやることもできない。そこで、土地取引への融資という形にして、資金を議員側に出したのではないか、と。そうであったとしても、これだけでは単なる民間の商取引です。違法性も問えない。

 しかし、国土法の届け出が出ていないとなると、これは国土法違反です。しかも、届け出を証明する書類がないと融資しないはずの銀行が、融資していたとなると、銀行の内規違反です。場合によっては、背任になりかねません。

 実際の取材は、融資を実行した銀行から始めました。国土法の届け出書類がないと融資しないわけですから、当然、書類の提出を受けているはずです。高木議員の自宅売買で、ちゃんと国土法の届け出があったのかどうか。銀行は「答えられない」と言いました。それはそうですよね。個人の取引の記録ですから。

1

2

3 4
高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

関連記事