激増する「不起訴理由は不明」という報道 これを放置していいのか?

  1. オリジナル記事

◆理由の公表を拒む検察、突破できない報道機関

それにしても、なぜ、これほどまでに「不起訴の理由は不明」という記事が増えてきたのか。考えうるのは、不起訴理由の公表を拒む検察の姿勢と、それを突破できない報道機関の弱体化だろう。

2年前の2020年7月、読売新聞島根県版と山陰中央新報に興味深い記事が載っている。ベタ扱い程度の小さな記事だ。新しい検事正の着任を機に松江地検が方針を変え、不起訴の理由を原則として公表しない姿勢に転じたという内容である。両紙の記事を一部引用しよう。

松江地検が20日、不起訴処分の内容を公表しない方針に転換した。地検は「検事正が代わったため」とし、詳細な理由を明らかにしていない。松江地検はこれまで逮捕・送検された人を不起訴にした場合、報道機関に処分内容を明らかにしていた。(略)逮捕、送検された人の名誉回復、警察の捜査が適切だったかを明らかにする上で、処分内容の公表は重要な役割を果たしていた。(2020年7月21日、山陰中央新報)
地検は、逮捕・送検された容疑者を不起訴とした際、報道機関の取材に対し、これまでは「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」といった理由や内容を明らかにしてきたが、方針を一転させた形。三井田次席検事は方針変更について、「処分内容を公表したときに発生する人権侵害などを考慮した」と理由を述べた。(2020年7月24日、読売新聞朝刊大阪本社版・島根県版)

記者会見という公の場で不起訴理由の非公表方針を公言したケースは、記事になっていないだけでほかの地検でもあったかもしれない。記者会見で公言しなくても、非公開方針を旨とする地検はほかにも多々あろう。

検察組織の統一性や実際に「不起訴理由が不明」記事が激増している実態を踏まえると、非公表方針の考え方は検察組織全体で共有されていると考えていい。

もっとも、以前からこの問題は各地でくすぶっていた。

例えば、読売新聞は2013年3月20日朝刊(大阪本社版)で「不起訴の理由 非公表/逮捕者 名誉回復に影響」という大型記事を掲載。「検察庁が、事件の容疑者を不起訴にした際、『起訴猶予』『嫌疑不十分』などの種類や、その判断の理由を公表しないケースが相次いでいる」「(不起訴の)種類が伏せられると、犯罪に関わったのか、無関係なのかがわからない」と指摘した。

記事によると、大阪地検は2013年2月までの1年間、報道機関から不起訴に関する説明を求められた107件のうち約6割、65件で不起訴の種類を公表しなかったという。それでも、ほぼ全件について理由を説明しないという現在の姿勢ほど、検察はかたくなではなかったと思われる。

◆では、現場の記者たちは?

では、不起訴の理由を説明しない検察に対し、記者たちは現場でどう対応しているのだろうか。検察側の対応に大した疑問も持たず、「わかりました」とだけ言って、すごすごと引き下がっているのだろうか。

不起訴の理由を取材することは、事実関係の確認だ。「調査報道」といったレベルの話ではなく、“玄関取材”に類するものだ。しかし、こうした基本的な事実さえ取材できないのだとしたら、取材力の劣化も極まったというほかはない。

こうした問題について、熊本日日新聞の司法キャップ植木泰士記者(33)に話を聞く機会があった。植木記者は連載企画「くまもと発・司法の現在地/不起訴の陰影」(今年6月掲載)の取材班リーダーである。

「不起訴理由を説明しないのは、明らかに不当だと思います。熊本地検では、記者が不起訴理由を尋ねてもゼロ回答ばかり。秘密主義がどんどん進んでいる。不起訴にするということは、容疑者を公開の法廷で裁かずともよいということ。その判断は、いわば、検察による“事前裁判”です。検察官が裁判官の代わりになってしまっている。その割合(不起訴率)が7割を超えているというのも異常ではないでしょうか」

熊本日日新聞のこの企画は、まさに「不起訴理由を開示しない検察」の問題を取り上げたものだ。連載の狙いは明確で、1つは、不起訴率が7割にも達する中、その理由を開示しないことは“検察による事前裁判化”を容認することにつながるのではないか、との指摘だ。

もう1つは、犯罪の証明がなかった「嫌疑なし」も明らかにされないため、捜査の不手際や誤認逮捕といった警察・検察にとって不利な事態が埋もれてしまうのではないか、というものだ。

ただし、植木記者は検察の姿勢だけでなく、取材側にも問題があると感じている。

不起訴理由を開示すべきだと迫ると、他メディアの記者から「地検の発表は義務ではない。メディアは便宜供与を受けている立場だから、そこまで求めるのはいかがなものか」といった声が出ると明かす。

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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