◆「誰が証拠書類を持っているか」をつかむ
物的証拠、つまりブツの話で言うと、誰がそのブツを持っているかを特定することが大事です。
配付資料の中に、琉球新報の2004年の記事「地位協定の機密文書入手」があります。このときの中心にいたのが、いま沖縄国際大学の先生になっている前泊博盛さんという方です。前泊さんは、どうやって外務省の秘密ペーパーを入手したか。端緒の入手から記事化まで、実に7年余りを要しているんですね。7年、8年ですよ。その執念というか、しつこさというか。私がメーンで書いた『権力vs.調査報道』(旬報社)という本に詳しく書いていますので、ぜひそれを読んでください。権力監視型の調査報道においては、執念がいかに大事か。諦めないことがいかに大事か。よくおわかりいただけると思います。
外務省文書の取材とは違いますが、前泊さんの取材はちょっと変わっています。基本的には、堂々と役所の中で、例えば、庁議の部屋に入っていき、「これ借りるよ」と言って、文書を持ってくるんですね。そしてコピーしてすぐ返す。何か言われたら「これは県民の財産でしょう?」「君たち役人は県民に言えないことをやっているのか?」と堂々と言う。相手がたじろいでいる間に若い記者にコピーしてもらう。そんな感じだったそうです。
これが良い方法かどうか、判断は難しいかもしれません。日常的な付き合いの中で、「あいつだったら」という濃密な人間関係もあったでしょう。もちろん、今のコンプライアンスで言ったら許されないかもしれない。でも、自分で簡単にコンプライアンスの線を引き、何でもかんでも自分を制御しないほうがいい。コンプライアンスを意識過ぎると、必要以上に萎縮し、最悪、取材方法についても当局のお墨付きを得ることが習い性になりかねません。
どこまでが取材として許されるのか、許されないか、については、結構真剣に詰めて考えたほうがいいと思うんです。つまり、ここで言いたかったのは、ブツにはいろんな取り方があるということです。