まず記録の入手を  誰がその重要資料を持っているのか? 「権力監視型の調査報道とは」【2】

  1. How To 調査報道

◆取締役会の議事録には誰がアクセスできるか

 次の記事資料を見てください。1997年の記事です。

 北海道新聞の地元・札幌に「丸井今井」という大きな地場の百貨店があります。そこの社長が役員会の議事録を偽造して、自分の個人的な投資の債務保証を会社にさせていた。自分の借金を背負わせていた、という特別背任を絵に描いたような話です。

紙面の「偽造議事録」のうち、氏名の部分は本記事掲載に際して加工し、消しています

 この取材では、偽造議事録そのものをまず入手しました。記事に掲載した写真は偽造された取締役会議事録そのものです。あとは、その偽造とされる議事録が本当に偽造かどうかを調べていくわけです。

 会社の取締役会の議事録は、そもそもどこにあるのか、どうやって管理されているのか、だれがアクセス可能かなどを考えるわけです。すると、議事録にアクセスできる人は限られる。偽造の実務を担当した人も限られてきます。

 ただし、ブツそのものを紙面に載せるようなケースでは、それが誰から出たか、当事者たちには絶対に分からないようにしなければなりません。そうしないと、思わぬ形で情報源がばれてしまうことがある。手元のブツをそのまま紙面に出していいか、あるいは取材先でそのブツを示して良いか。よくよく考える必要があります。

◆沖縄密約事件の失敗

 沖縄密約事件のとき、毎日新聞記者だった西山太吉氏は、入手した機密電文を社会党の代議士に渡しました。取材で得た資料をそのまま外部の者に渡すことの是非は問われるべきかもしれない。

 しかし、さらに言えば、このときは代議士が資料片手に国会で質問に立ち、答弁席にいた外務省職員が「先生、資料を確認させてください」と言ってその資料を見て、それで出所が分かったと言われています。決裁欄の印鑑の順番で分かった。取材者が直接ばらしたわけではないとはいえ、資料の現物を不用意に外に出したために、情報源が露見する契機になったわけです。そういう失敗をしてはいけない。

 そうであっても、ブツは大事です。ブツを手にすれば、証言ベースだけの取材から大きくステップアップしていくことは間違いありません。

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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