まず記録の入手を  誰がその重要資料を持っているのか? 「権力監視型の調査報道とは」【2】

  1. How To 調査報道

◆記者は市民を騙してはいけない そのためにも記者が騙されてはいけないない

 「質問」「反問」に関して言えば、私にはものすごく苦い経験があります。経済部勤務になったばかりの、入社4、5年目だったと思います。北海道電力の泊原発で水蒸気漏れの事故があって、急遽、取材に行くことになった。私は金融担当でしたが、その日はたまたま、電力担当の先輩がいなかったんですね。

 北電本店の会見場所に行くと、いろんな説明されました。難しい発電システムの話、カタカナの専門用語、見たこともない発電炉の概略図。そして先方は「……だから安全です。心配に及びません」と言っている。正直、まともに質問できませんでした。専門用語の表記や意味を尋ねた程度でしょうか。質問と言えるレベルじゃないんです。

 その時、これはやばいぞ、と。知識がないと簡単に相手に騙されてしまうぞ、と。ニュースの価値判断もできないわけです。1面トップなのか、社会面のトップなのか、ベタ記事でいいのか。その後、悔しくて原発の本を買い込んで、勉強をしました。軽水炉と沸騰型炉の違いとか、チェルノブイリやスリーマイルの事故のこととか。金融担当だから直接は関係ないですけれど、知っておいて損はないはずだと思いました。

 それからは特に、日常の取材相手が日々の仕事で何をやっているか、具体的に知ることを目標にして勉強しました。融資の実務はどうやっているのか、小切手帳はどう使うのか、不良債権はどう分類するのか。JRの担当になった際は運転所に行って、電車のメカニズムも教えてもらうとか。関連法令も勉強しました。

 とにかく、知識が必要です。知識がないと、相手の不正や不作為もきちんと指摘できない。僕らの大先輩はかつて、戦時中に多くの国民を騙したわけです。日本軍は勝った、勝った、また勝った、と。僕たちは二度とそういうことをしてはいけない。二度と国民を騙してはいけない。そのためには、まず、記者自身が騙されてはいけない。都合よく利用されたり、権力にコントロールされたりしてはいけない。そう思います。そのためには、圧倒的な知識、専門知識が欠かせません。1900年代以降の歴史的な知識も不可欠でしょう。

=つづく(第3回は2月2日公開予定)

<第1回>調査報道は端緒がすべて それを実例から見る 「権力監視型の調査報道とは」

■参考
単行本『権力vs.調査報道』(高田昌幸・小黒純著、旬報社)
単行本『権力に迫る「調査報道」』(高田昌幸・大西祐資・松島佳子著、旬報社)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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