調査報道は端緒がすべて それを実例から見る 「権力監視型の調査報道とは」【1】

  1. How To 調査報道

◆「男には死んでも言えないことがある」というコメントを載せた

 参考資料の中に「忠別ダム用買収解決資金」という記事があります。1997年の北海道新聞1面です。見出しの「旭川開建」は旭川開発建設部と言って、北海道開発庁の出先です。

 記事の内容を簡単に言えば、こういうことです。国営の忠別ダムの建設に絡んで、水没予定地を国が買収できなくなった。地主に値段を吊り上げられた。買収予定地の真ん中に土地を持っていたんですね。こういうのを地上げ業界で「ふんどしを踏む」と言うそうです。

 忠別ダムの場合、ふんどしを踏んだのは、地元の暴力団関係者です。着工予算もついたのに、用地が買収できない。そういう事態に陥ったときに、まだ入札公告もしていないのに、事実上3年も前から談合で受注が決まっていた大手ゼネコン側、つまり大成建設ですが、そこに対して「民間の大成建設に買収してもらって国に安く転売してもらおう」という話が浮上した。

 ゼネコンも一流企業ですから、自分では手を汚したくないので、一次下請けに裏金をつくらせます。総額6億円です。そしてフィクサーみたいな人物も介在し、一次下請けの関係先が問題の土地を買って、国に安く転売した。その差額は着工後、ダムの設計変更でちゃんと取り戻す。そういう仕組みだったのです。この一次下請けは、後に、政治家・小沢一郎氏の政治資金事件「陸山会事件」に絡んで有名になる水谷建設です。

 そのときに、6億円のお金をデリバリーする場面があったんですね。ゼネコンの幹部と一次下請けの幹部、元の土地所有者、国の役人。それらが札幌のホテルの一室に集まり、6億円、ボンと動かします。そこに、関係者の口止め役として、本州の暴力団幹部もいた。その幹部は6億円のうちから億単位の金を持って行く。そういう事件だったんです。これはその後、国会でも出ました。でも、真相は闇から闇です。

 この関連記事は何本も書きましたけれども、誰も事実関係は公式に認めませんでした。公式には、です。こっちは絶対の確信がありました。関係者からほとんど全てを聞き出していた。その内容が正しいかどうか同僚記者と組んで3~4カ月かけて取材する。そういう流れでした。結果として、事実関係は当初の取材のとおりでした。

 では、端緒は何だったか。これらの工作に関わった人が周辺にしゃべり、それが「アングラ情報」として出回っていました。それをつかんだわけです。逆に言うと、そういう地下水脈みたいな人たち、そこと接点を持ち、継続的に接触していなければ端緒はキャッチできなかった、ということです。

 実は30年間の記者生活の中で一番記憶に残っているコメントが、この記事の中にあります。記事の最後のほうに、旭川開発建設部の幹部のコメント。何度も取材に行って合計で十数時間の取材のあげく、彼は言った。「男には死んでも言えないことがある」。言い逃れできなくなった相手の最後のせりふがこれでした。

■参考
『新聞・テレビは信頼を取り戻せるか』(小俣一平著、平凡社新書)
『新聞が面白くない理由』(岩瀬達哉著、講談社)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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