政治の不正は政治部で、警察の不正は警察担当で 逃げ場を作らず臨む 「権力監視型の調査報道とは」【4】

  1. How To 調査報道

◆記者クラブを離れる意味 広角に歴史的に社会を見つめ直す

 高田 もうひとつ、記者クラブ詰めになっていると、どうしてもその瞬間瞬間で勝負していくので、少し過去にさかのぼるような歴史的な視点がどうしても弱くなる。調査報道チームのようなものを仮に自由に動かせるんだったら、少し過去にさかのぼりながら、何年か前のやつを掘り起こしていく。そういうこともできる。

 例えば、日本の原子力の歴史。みんな初代の原子力委員長の正力(松太郎)の話はする。原子力委員長初代は正力ですよね。3人目、誰か知っていますか。正力です。

 では、2人目は誰ですか。ほとんどの人が知らないです。原子力開発の歴史本を読んでいても、あまり出てこない。2人目は、宇田耕一氏という人がやっているんです。私のふるさと、高知選出の代議士だった人です。宇田委員長はIAEA(国際原子力機関)で演説したり、他の重要なこともやったりしているんですが、なぜかスポットが当たっていない。宇田氏はもう亡くなっていますけれども、親族宅などに、もしかしたら宇田家の日記か何かあるかもしれない。宇田氏が原子力にどういうかかわり方をして、例えば、核オプションで、核兵器を持つか持たないかの議論がどう始まったかとか、もしかしたら重要な資料があるかもしれません。

 そういう感じで、歴史をちょっとさかのぼりながら動くのは、チームとして自由な遊軍の機能、調査報道チームがふさわしいでしょう。世界に目を広げて、取材を組み立てるケースもある。記者クラブに張りつきだったら、なかなかそういう動き方もできないですから。だから、専門チームも日常監視チームも両方大事だと思います。

=つづく(最終の第5回は2月4日公開予定)

■連載「権力監視型の調査報道とは」
<第1回>『調査報道は端緒がすべて それを実例から見る』
<第2回>『まず記録の入手を  誰がその重要資料を持っているのか?』
<第3回>『“ネタ元”ゼロで始まる深掘り取材 そのときに武器となるのは?』

■参考
単行本『権力vs.調査報道』(高田昌幸・小黒純著、旬報社)
単行本『権力に迫る「調査報道」』(高田昌幸・大西祐資・松島佳子著、旬報社)

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高田昌幸
 

ジャーナリスト、東京都市大学メディア情報学部教授(調査報道論)。

1960年生まれ。北海道新聞、高知新聞で記者を通算30年。北海道新聞時代の2004年、北海道警察の裏金問題取材で取材班代表として新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞などを受賞。

 
 
   
 

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